普通は見られない角度から撮る〜『ビリー・エリオット ミュージカルライブ−リトル・ダンサー』

 『ビリー・エリオット ミュージカルライブ−リトル・ダンサー』を見てきた。

 これ、映画はもちろん舞台でも一度見たことがあるのだが、むしろ舞台版は映像で見たほうが面白いかもしれない…というのは、この映像版はダンサーを上とか横とか絶対に観客席から見えない角度から撮るということをずいぶんやっているからである。ダンサーの躍動的な動きを真上から撮ったところが見られるというのはそれだけで結構面白い。ただ、いろんな角度から撮ってるぶんちょっと踊りの場面の編集がめまぐるしくて、じっくり見たいステップでも落ち着かない感じがするというのはあったが…(このプロダクションは基本的に踊れる人を揃えているはずなので、編集でダンスシーンをごまかす必要はないはずだ)。あと、クローズアップの使い方も効果的で、警官の前で踊るビリーのクローズアップや、ビリーの将来を案じた親父さんのジャッキーがスト破りに行こうとするところで親父さんの表情をとらえるカットなんかは映像ならではのものである。ちなみにこのジャッキーが今までの踊りに対する偏見やストへの忠誠心をはかりにかけて「息子のために自分を犠牲にするべきか」という問いに悩むところはこの舞台随一の見所だと思うし、またまたこの作品全体が提示しているステレオタイプな「男性らしさ」への批判とかなりつながっているものだと思う。そういう作品の特徴をうまく伝えているあたり、撮影手法の工夫ぶりが大変良かった。

 また、この上演は今までビリーを演じた27人のダンサーが揃って踊るショーがついた記念上演の映像なので、そこは実に華やかで面白い。さらにサッチャーが死んだ後で「メリー・クリスマス、マギー・サッチャー」の歌を聴くとまたちょっと違う妙な味わいが…

 とりあえず、この舞台じたいは映画を見たことがあってもなくても大変オススメである。単純に面白いいい作品だというのもあるし、さらに、こういうサッチャー時代の炭鉱政策を非常に辛辣に批判した作品が毎日ウェストエンドでやっているというのは実にうらやましい(!)。

リトル・ダンサー [DVD]
ジェネオン・ユニバーサル (2013-11-06)
売り上げランキング: 3,528