自足する、非歴史的かつクィアな人間〜『プリデスティネーション』(ネタバレあり)

 マイケル&ピーター・スピエリッグ監督『プリデスティネーション』を見てきた。ハインラインの「輪廻の蛇」が原作らしいのだが、未読(是非読まなきゃ)。

 主人公はバーテンダーのふりをしつつ実は時空警察につとめている男(イーサン・ホーク)と、ひょんなことから男と与太話をすることになったバーの客、ジョン(サラ・スヌーク)。ジョンの奇想天外な身の上話から、さらに2人の運命が二転三転し…

 これ、予告からするとただの時空警察ものSFに見える…のだが、実は非常にクレバータイムパラドックスもので、しかもたいへん切ない話でもあるのだが、詳しく内容を分析しようとするととんでもないネタバレになってしまうのでなかなか難しい(まあ、SF映画をよく見る人なら途中で気付くかもとは思うのだが)。とはいえ、できるだけネタバレしないように分析すると、この作品のポイントは、時間旅行によって全く歴史から切り離された人間が生まれる、というところである。この過去の人類と一切つながりを持たない非歴史的人物は性愛及び生殖において完全に自足しているという点でクィアかつ孤独であり、また生殖の点ではある種のクローンであるのだが、ちょっとこのあたりの特異なクィア性、クィアであることと歴史を持たないこと、また同一(クローン)であることのつながりについては『わたしを離さないで』とかと関連づけて論じるといいのかも…あとチャールズ・L・ハーネスの「時の娘」にもちょっと似ているか。

 と、なんだかよくわからない感想になってしまったが、とりあえずちゃんと時系列を確認しながら見ていればかなり面白い作品であるのは確かである。とにかく主演のイーサン・ホークサラ・スヌークの演技が素晴らしく、とくにスヌークの変幻自在ぶりは驚きである。ふつうのSFスリラーみたいな予告だし上映館も少ないのでなかなかアンテナに引っかからない人が多いかもと思うのだが、孤独をテーマにした作品が好きな人、クィア系のものに興味がある人には是非見て欲しいと思う。