リチャードを2人が演じる、野心的な翻案〜少年社中『リチャード三世』

 あうるすぽっとで少年社中の『リチャード三世』を見てきた。場所や時代は特定されていないが、衣装は和装にいろいろ手をいれたようなもので、ヨークは白、ランカスターは赤というふうに基調色を分けている。セットは舞台手前から奥に歪んだ木の橋みたいな通路があるというもので、場面転換もなく比較的シンプルである。基本的に翻案に近いもので、話の展開はもとのままだが台詞はカットされたりいろいろ変わっている。

 こちらのプロダクションの特徴はリチャード役を善と悪に分離して2人の役者にやらせていることである。基本、リチャードが出ている場面のほとんどではこの2人が同時に舞台に立って、良心と野心の葛藤をわかりやすいように示している。白い衣装にイケメンふうな善と、黒い衣装で伝統的なリチャードに近い立ち居振る舞いの悪というのはちょっと見た目がステレオタイプ的すぎる気もするが、最後になるとリチャードの内面が2人に分離されているのは、マーガレットが悪辣なリチャードに良心が宿るよう呪いをかけたためであるとわかるようになっており、かなり女の呪いの力が強調されている。さらに後半はこの2人の役割の入れ替わりがスリリングに描かれて、見ていてなかなか面白かった。

 と、いうことで、基本的には野心的な翻案で良かったのだが、いくつか疑問点もある。まず、所々入るアドリブ的なジョークには面白いのもあるがすべっているのもあり、全部はいらないのではないかということである。次に、やはりこのプロダクションも『完熟リチャード三世』同様リチャードに焦点があたっており(2人もリチャードがいるんだからまあ当然か)、リッチモンドの影が薄い。最後に、王女のほうのエリザベスをエリザとベスという2人に分けたのははっきりいって不要だろうということである。