所詮ディズニー〜『イントゥ・ザ・ウッズ』

 帰りの飛行機で『イントゥ・ザ・ウッズ』を見た。

 原作は87年に初演されたミュージカルだそうで、『赤ずきん』『シンデレラ』『ラプンツェル』『ジャックと豆の木』などのおとぎ話を現代風に再構成したものである。子どもが生まれないパン屋の夫婦が魔女の呪いをとくため、赤いずきん、金色の靴、黄色い髪の毛、白い牛を探す中でそれぞれの童話の登場人物に出会い、やがておとぎ話の主人公同士で協力しなければならない事態に…というような物語だ。

 全体的に、そんなにものすごくつまらないというわけではないが、かなりぬるい話だった。いろんな批評でいろんなぬるい点が指摘されていたが、だいたい同意である。まず、けっこうバランスに欠けるところがあり、ラプンツェルの出番が少なすぎてまとまりがないし、赤ずきんジョニー・デップとか「ちょっと出てきて死ぬだけ」みたいな役でまるでおまけみたいな感じである。さらに、おそらく舞台ではもっとどぎつい大人の笑いを意識していたのではないかと思われるところがずいぶん薄くなっている。シンデレラの王子さまとパン屋の妻が森で不倫関係に陥るあたりの描写がソフトすぎて、その後にパン屋の妻が突然死するあたりはギャップでブラックになるはずなのに何だか全然はっきりしないし(あれではただのゆるいミソジニー話になってしまうだろう)、他にも哀れなんだか悪いんだかよくわからない中途半端な魔女の描写とか、生あたたかい感じで大団円になっちゃう落とし方とか、童話の再構成ならもっといくらでもやりようがあるのにと思ってしまった。舞台版のあらすじを調べると、どうも元のヴァージョンはかなり諷刺的で辛辣なもので、オチも良い意味でかなりひどいらしいので、ディズニーが作ったからこんなハンパにご家族向けになってしまったんだろうと思う。原作をちょっと見てみたいと思った。

 面白いところもないわけではなく、アナ・ケンドリックの現代女性らしい繊細さと自立心を併せ持つシンデレラやエミリー・ブラントのついつい王子によろめいてしまうパン屋の妻は悪くないと思うし、あとクリス・パイン演じるシンデレラの王子さまとビリー・マグヌッセン演じるラプンツェルの王子さまが大自然の中で「自分のほうがつらいぞ」というアホアホアピール合戦をする'Agony'は爆笑である。クリス・パインがやたらハンサムだがあんまり頭良くなさそうな浮気者の王子さまをなかなか楽しそうに演じている。

追記:この映画はベクデル・テストをパスする。シンデレラが継母や姉たちにお祭りに行きたいというところがあるからだ。