Party Up!市民ひとりひとりの政治を称える『パレードへようこそ』(ネタバレあり)

 『パレードへようこそ』を見てきた。

 舞台は1984年、サッチャー政権下の炭鉱閉鎖反対スト。ストで収入も無く、苦労する炭鉱の人々を助けたいと思ったロンドンのゲイ活動家マーク(ベン・シュネッツァー)は、プライドパレードでの募金をきっかけに「炭坑夫支援レズビアン&ゲイの会」(LGSM)を設立する。お金を集めるが、同性愛者への偏見が根強く、なかなか寄付を受け入れてくれる労働組合が見つからなかった…ものの、直接ウェールズの村ディライスに連絡をとってみたところ、寄付を受け入れてくれることになった。LGSMはディライスに出向いてスト中の村人たちに挨拶するが、とくに偏見のない者から同性愛差別的な態度をとる者までいろいろな人々がおり、何度ももめごとが起こる。

 とにかく、なんというか「これこそ今年私が見たかった映画だ!」と思えた映画だった。労働運動とセクシャルマイノリティ権利運動の結びつきについてはもともと興味があったのだが、この映画はまさに私が興味があったところどまん中にきてくれた上、私がロンドンでクリスマスカードを買ってたGay's the WordがLGSMのヘッドクォーターとして登場したり、思わぬところに歴史の跡があったんだなーと驚いた。ロンドンにいた時もっと勉強しておくべきだった…

 ちょっと個人的にこの映画が好きすぎてどうも贔屓目になってしまうのだが、とにかく楽天的で心から楽しめる作品で、とくに個々の市民が政治をすることを臆面もなく称えているところが素晴らしいと思う。最初のつかみが良くて、映画はマークが朝テレビで炭鉱の村々の苦境を見て思い付きでバケツを持って募金活動をするところからはじまる。政治活動なんていうのはこういうちょっとした思いつきで始めてしまっても別にいいものだと思う。そんなマークのやる気に巻き込まれていろいろな連中がLGSMに入ってくるわけだが、ひとりひとり個人としてのキャラがあり、政治活動っていうのはこういう個々の市民がそれぞれの動機で参加してできるものなんだなと実感できる。思いつきでたった9人でLGSMをはじめて(その後レズビアンがちょっと増えるのだが)、またまた思いつきでウェールズに電話してつながりができ、何でもあたってくだけろということで組合からきたダイ(パディ・コンシダイン)と会ってみると意外に偏見が無く、とうとう村を訪問することになるが、村でも偏見まみれの人々がたくさんいる一方でヘフィーナ(イメルダ・スタントン)やシャン(ジェシカ・ガニング)など偏見がないスト参加者もおり、異なる者同士で個人として交流する中でセクシャルマイノリティの人権運動と労働運動の理想が共鳴しはじめる。最後に組合の人々がロンドンのプライドパレードにやってきて、政治的スローガンに難色を示していたパレード主催者たちを顔色なからしめるところはまさに差異ある者たちが困難を乗り越えて政治的に連帯することの素晴らしさを見せていると思う。最後の場面は一緒に行進したいと思える終わり方になっている。

 しかしながらこの映画、ここまで政治的理想を称えていながらも全く堅苦しさや重苦しさがなく、全編ユーモアに溢れている。「誤解されると困るからゲイと話したくない」という炭鉱夫たちにヘフィーナが「あんたがそんなにイケてるわけないでしょ!」と皮肉をかますあたりはすごく笑える。さらに村の男たちはダンスなんか踊れないのにロンドンから来たゲイのジョナサン(ドミニク・ウェスト)はダンスが達者で、村の女どもがみんなジョナサンの踊りに夢中になってしまい、表だって嫉妬することもできない村の男たちがジョナサンに踊りを習おうとし始めるあたりもおかしい。
 また、この映画では理想ばかりではなく、政治活動ならではの問題も描かれている。例えば途中でLGSMのレズビアン、ステラとゾーイのカップルが組織を作ろうとしたらゲイたちに後でいいとか言われたりするのだが、途中で「女性の権利も大事」とか言っているわりにそういうことが起こるあたりがかなりリアルだと思った。女性のニーズはいつも後回しだ。しかしながら結局、ふたりは分派組織を作り、スト参加中の村のばあちゃんと野菜談義で盛り上がる(ここでベクデル・テストはクリア)。レズビアンたちに感化された料理自慢のばあちゃんが、最後に新しく開発したヴィーガンレシピの料理をタッパに入れてパレードにやって来て、ステラとゾーイに合流するあたりはまったくとても素敵な落とし方だと思う。この場面はささやかな描写ではあるが、肉がなくてもうまいものが作れるように、男がいなくても女は完結するということをうまく暗示してると思う。またまた、すごく聡明だが横紙破りなところもあるマークがいろいろワガママを言って出て行ってしまうが、最後にメガホンを持ってGay's the Wordに戻ってきて謝るあたりもなかなかうまくできている。

 最後に、この映画を血の通ったものにしているのは、出てくる役者たちの息がとてもあっているからだと思う。マークを演じるシュネッツァーはなんかきれいなダフィドみたいな感じですごく生き生きしているし、尾羽うち枯らしていたのにウェールズに行って燃え始めるジョナサンを演じるドミニック・ウェストや、ウェールズ生まれで悩みを抱えたゲシンを演じるアンドルー・スコット、秘密を抱えたクリフを演じるビル・ナイ、熱い男ダイを演じるパディ・コンシダインなど、芸達者な男優が揃っている。女優陣ももちろんで、ステフを演じるフェイ・マーセイやシャンを演じるジェシカ・ガニングはもちろん、ヘフィーナ役のイメルダ・スタントンがとにかく面白くて笑わせてくれる。


↓これが2012年くらいのGay's the Wordで撮ってきた写真。