デンマークどうでしょう〜下北沢『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』

 下北沢のOff・Offシアターで鵜山仁演出の『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』を見てきた。言わずと知れたトム・ストッパードの『ハムレット』翻案戯曲である。一度ロンドンで見たことがあるので、おおまかな展開(というか、タイトルでネタバレだしそれ以外の展開は無いのだが)などはこちらのエントリを参照。
 
 今回のプロダクションは、前に見たときよりもシンプルな感じで、スクリーンの働きをする布がぶらさがった舞台に少しばかり衣装や樽などの小道具が置かれ、かなり舞台の前のほうでアクションが展開する。この舞台の前方を活用する演出は、ローゼンクランツとギルデンスターンが状況を「浅く」しか理解してないことを暗示しているようだし、また観客との距離を縮める効果もあるので良い。中盤には洗濯紐みたいなのが舞台の右から左に張られ、そこにパペットがぶら下げられたりもする。

 この『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』のポイントは、舞台に出てくる血肉のある人間はローゼンクランツ(石橋徹郎)とギルデンスターン(浅野雅博)の2人だけだということである。他の人物は全員、もともと2人の役者が収録しておいた映像か、パペットだ。前にロンドンで見た時はわさわさと人が出てきてけっこうにぎやかな演出だったような覚えがあるのだが、この『ローゼンクランツとギルデンスターン』は、人間として舞台に登場するのが本当に2人しかおらず、悲劇の中心であるハムレットその他の人たちはスクリーンにうつる影だし、旅役者は操り人形で(これは死んでも生き返っちゃうというシークエンスをより面白くしている)、実に孤独な作品だ。そんな中でローゼンクランツとギルデンスターンは実体すらない影や人形に翻弄されまくり、一貫性を求めても得られないまま死んでしまう。このたった2人でとくに悪いことはしていないのに何が何だかわからない困った状況に巻き込まれてしまうローゼンクランツとギルデンスターンは、前に見た時も書いたが、非常に観客(巻き込まれる傍観者)に近い立場にある人間だ。とくに今回、私は課題の採点でへとへとであまり寝ていなかったので、ローゼンクランツとギルデンスターンが「朝一番最初にやったことは何だっけ」と悩んだりするところを見て「ああ、疲れるとああなるよな…」と思ってしまった。しかしながらこのどうしようもない流されるだけの人生を象徴するような芝居を、このプロダクションはかなりシンプルにテンポよく笑いもきちんと組み込んで処理しているので、なんとなく見終わった時には落ち着いた感じというか、穏やかな諦観が舞台を満たしているような気分になった。

 ちなみにこれ、大泉洋主演でやったらいいんじゃないかと思った。『水曜どうでしょう』みたいな演出はどうかな…そんなにこの番組に詳しいわけではないのだが、無茶振りされるローゼンクランツやギルデンスターンは大泉洋にぴったりの役では?