ちょっとアレに似ていますね〜『黒蜥蜴』(ネタバレ)

 記事アップが遅れてしまったのだが、先週末に神奈川のKAAT劇場で『黒蜥蜴』を見てきた。実は去年の紅白で美輪明宏の歌をちらりときいて「この人ももうかなり年だし、声が出るうちに生で見ておかないとまずいんじゃないだろうか」と思って行ってきたのだが、不安が的中、私が見た次の公演から、主演の美輪さんがのどの病気ということで公演中止に…公演は秋に延期ということらしいが、のどは役者の一番の商売道具とはいうもののやはり年齢に左右されるものではあるので、あんまり無理しないほうがいいと思う。(このプロダクションはこれで終わりらしいが、本当かな?)

 戯曲は江戸川乱歩を原作とする三島由紀夫の作品である。主人公は明智小五郎(木村彰吾)と犯罪組織の頭目である黒蜥蜴(美輪明宏)。前半部分は、黒蜥蜴が宝石商の令嬢である岩瀬早苗の誘拐を企むが明智に阻まれるところまでである。諦めない黒蜥蜴はふたたび早苗を誘拐し、身代金として高価な宝石「エジプトの星」を得るが、実は黒蜥蜴は単なる女賊ではなく猟奇殺人犯で、美しい男女を殺して人形に加工するということをしており、エジプトの星では飽き足らず、早苗も殺害して人形にしようとする。しかしながらいくつものどんでん返しの末、黒蜥蜴は全てが露見して自殺。明智が黒蜥蜴の死を悼んで終わり。

 三島の現代劇を見るのは初めてだったのだが(歌舞伎は見たことがある)、極めて退廃的でトリッキーなあらすじをうまく処理しており、とにかくデキる劇作家だったんだなーと思った。美しくてキラキラしたものが好きな猟奇殺人犯の黒蜥蜴は現実離れした強烈な個性の持ち主で、まさに美輪明宏のハマリ役だ。やはりお年ということもあってそこまで俊敏な動きはできないし、若干セリフに流れの悪さを感じたところもあったのだが(やっぱり既にちょっとのどの調子悪かったのかな?)、それでもしぐさの美しさと存在感にはすごいものがある。美術も手が込んでいて、第一幕の大阪の高級ホテル、第二幕のアジト、第三幕の人間人形の部屋などはキラキラに豪華な一方、東京タワーや明智の事務所、港なんかは殺風景な感じで対比がはっきりしており、視覚的にもメリハリがある。

 ちなみに『黒蜥蜴』、ヒロインの黒蜥蜴は美少女の早苗を狙う一方で明智に恋心を抱いており、バイセクシャルな女性である。この、対等に知恵を競う犯罪者と探偵の間に漂う、必ずしも肉体的欲望には結びつかないものの性的な緊張感は非常にエロティックだ。これはどこかで見たことがある…と思ったら、『シャーロック』のアイリーンとシャーロックではないか。まあ、あの制作チームがこの芝居を見ているということはないと思うが…(映画版のDVDは未発売である)。こういうテーマは洋の東西を問わずお客を引きつけるところがあるんだろうか。