苦悩のヒースクリフ、狂気のキャサリン〜『嵐が丘』

 日生劇場でG2演出『嵐が丘』を見てきた。主演はキャサリン役が堀北真希ヒースクリフ役が山本耕史である。

 場面については後ろにスロープがあり、前でアクションが展開されるようなセットのほか、嵐が丘及びスラッシュクロス屋敷の屋内セットが入れ替わる。無骨な嵐が丘と洗練されたスラッシュクロスの内装の対比などが対比されているのは映画などでもおなじみの表現だ。話については、娘キャサリンの最初の結婚のところなどはかなりカットされて短くなっている(そうしないとたぶんものすごく長くなる)。また、豪華なことに音楽は生演奏である。

 構成については、ネリー(戸田恵子)が語り手として全体を支配している感が強い。また、面白いのは、子役が話す場面でも大人役の役者が出てきて、声だけは大人の役者が演じているというとこころである。つまり幼いキャサリンヒースクリフがスロープの上で会話する場面では、スロープの下に大人のキャサリンを演じる堀北真希ヒースクリフを演じる山本耕史が立ち、セリフだけはこの2人が言うというようになっている。このため子役から大人役への入れ替わりがスムーズに行われるし、またネリーが全体を支配し、物語が追憶の中で展開していることが強調されていると思う。ネリー役の戸田恵子が芸達者なのもあいまって、この演出ではマトモな人間がほとんど出てこない中の唯一の分別ある大人としてのネリーが際立っているが、一方でネリーの話には自己弁護や登場人物への贔屓が隠れているということもちらほら見えるような作りになっている(これは原作にもあるが)。

 出てくる役者は皆かなり良いのだが、とくに素晴らしいのはヒースクリフ役の山本耕史である。最初はセリフが少なくむっつりしている場面が多いのだが、一言もしゃべらなくても暗くて凄味のある色気があり、目が離せない。後半部分で復讐者として戻ってきてからは、憎悪を剥き出しにして暴発する一方で長くて芝居がかかった情熱的なセリフをわざとらしくなく美しくこなしており、実にロマンティックなアンチヒーローらしい。一方で堀北真希のキャサリンはいかにも甘やかされた美少女ふうで、私の好みからするとちょっと個性が清明すぎるような気もするのだが、それでも古典のヒロインとしては非常によくはまっていると思う。狂気に陥って枕の羽をむしる場面の演技が一番良かったと思うのだが、ちょっとオフィーリアみたいな感じだった。苦悩に引き裂かれた山本ヒースクリフと一緒になるとまるでハムレットとオフィーリアみたいなので、是非この2人で『ハムレット』もやってほしい。