密室劇〜『エレファント・ソング』(少しネタバレあり)

 シャルル・ビナメ監督『エレファント・ソング』を見た。グザヴィエ・ドラン主演で、カナダの舞台劇を映画化したものである。

 ストーリーは非常に舞台劇的だ。少し前に所属医師が性的なトラブルを起こしたため、スキャンダルに用心深くなっているカナダの病院で精神科医のローレンス先生が急に行方不明になった。精神の病で長期入院している患者のマイケル(グザヴィエ・ドラン)が何か知っているかもしれないということで院長のグリーン先生(トビー・グリーンウッド)がマイケルに聞き込みをするが、担当看護師長でグリーンの元妻であるスーザン(キャサリン・キーナー)は精神不安定だが人の心を操るのがうまいマイケルが妙なことをしないか心配し…というもの。

 密室的な舞台劇で、ほとんど役者の演技で保っているような映画である。ストーリーじたいはちょっとそこまで掘り下げないうちに急に悲劇に突っ込んで最後はなんか明るく終わってしまう…というような感じもあり、メリハリにこだわったせいでかえって調子が一定しなくなっているような印象を受けたのだが、それでも役者を見ているだけで十分面白い。グリーンウッドやキーナー、またグリーンウッドの妻役でちょっとだけ出てくるキャリー=アン・モスなんかも達者だが、やはりグザヴィエ・ドランの演技が一番の見所だと思う。相手を自分のペースにまきこんでしまう危険さとちょっとしたことで壊れてしまう繊細さを併せた大きな魅力があり、釘付けになってしまう。

 追記:なお、この作品はベクデル・テストはパスしない。スーザンがグリーンの姪と話す場面でパスするかと思ったが、姪が子供でスーザンにあまりちゃんと言葉で答えないので、微妙にパスしなかった。