ハルクの怒りはポスドクの怒り〜『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(ネタバレあり)

 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』を見てきた。

 愛がどうたらとかいう宣伝がひどいのはともかく、内容的に前作からかなり後退しているというか、はっきりデキが悪くなっていると思った。

 とりあえず脚本にかなり問題がある。トニーが懲りずに二度目に人工知能を作ろうとするあたりはアホとしか思えないし、マキシモ姉弟が急に心変わりするあたりは唐突すぎる。ホークアイにこっそり家庭がある設定もかなり強引で、そもそも隠れ家のシークエンスはいらないんじゃないかと思った。さらにヘレン・チョー(瀕死状態で放置されたまま、話の中で何のフォローもない!)の発明を、もとの開発者に何の挨拶もなく頂いてしまうトニーの倫理観は見ていてドン引きだ(お前はジェームズ・ワトソンか?!)。
 細かい台詞にもいろいろ問題があり、トニーのジョークがいちいち面白くない(初夜権ジョークとか、脚本家は面白いつもりで書いてるのか?)。さらにナターシャがブルースの前で言う「自分はソ連のエージェントの学校を卒業するときに避妊手術を受けさせられて怪物になった」という台詞は全くひどい。避妊手術を受けさせたほうは怪物かもしれんが、一方的に被害を被ったナターシャが自分を怪物呼ばわりすることはないし、子どもを作れない女性は別に怪物ではない。そんなことを言われたらブルースだってかえって困るだろうと思うのだが、なんかいい場面みたいになってしまったのはいったい何なんだ。(ちなみに、ちょっと微妙な場面がふたつくらいあるのだが、おそらくこの映画はベクデル・テストをパスしない。)
 ヴィジュアルのほうも、どうもX-Menに似てるな…とか、トランスフォーマーぽいな…とか、ちょっと変わったところでは『ゼロの未来』みたいなコンピュータの解析場面があったり、斬新さに乏しい。まあ、ここぞというところでヒーローが揃って画面を止めるところはおっと思うけれども。

 しかしながらアベンジャーズを見ていていつも思うのは、技術者と科学者の格差である。トニーは技術者で金も名誉もふんだんにあり、トニーにはもったいないほどいい女のペッパーとくっついてむちゃくちゃやってもなんだかんだで研究成果があがってるのに、科学者ブルースはハンディキャップを抱えて苦しんでいる。今回の映画ではブルースがトニーに押し切られて二度もヤバいものを作るのに加担させられるのだが、これはまったくカリスマ的なラボのリーダーに押しきられて倫理規定違反をやるポスドクみたいで気の毒すぎる。こんなんではブルースが怒ってハルクになるのも当たり前に思えてくる。ハルクの怒りはポスドクの怒りだ。