謎めいた魅力があるが、演出に疑問も〜シアタートラム『女中たち』

 シアタートラムでジャン・ジュネの『女中たち』を見てきた。中屋敷法仁演出で、矢崎広碓井将大が日替わりで女中たちことソランジュとクレールの姉妹を演じ、多岐川裕美が奥さまを演じる。私が見た回はソランジュが矢崎、クレールが碓井だった。

 舞台はお屋敷の一室。ソランジュとクレールの姉妹は一見、奥さまに忠実に仕えている女中のように見えるが、実は奥さまの留守中に奥さまを殺す結末を持つ(なかなか結末までいかないのだが)芝居ごっこをしている。奥さまは旦那さま(正式に結婚はしていないようで、舞台には登場しない)が投獄されて悲しんでいるが、実は旦那さまの投獄は女中たちの密告によるものだ。ところが旦那さまが釈放されたという電話がかかってきて、女中たちが密告がバレると思い、お茶に毒を入れて本当に奥さまを殺そうとする…ものの、奥さまは旦那さまの釈放を嗅ぎつけてお茶を飲まずに出かけてしまう。窮地に陥った女中たちは…

 舞台は奥さまのクローゼットがある部屋で、開演前の舞台では背板のない棚みたいなもので四角い壁を作って、部屋の中が部分的に見える状態にしてある。芝居が始まるとこの棚の上半分が上昇して、アクションが見えやすいようになる(芝居が終わるとこの上半分の棚がまた下降してきておしまい)。下半分の棚は小道具を置いたりするのに使われており、奥には服が入ったクローゼットがある。台詞には花についての言及がたくさんあるのだが、実際に花は舞台に登場しない。

 昔戯曲を読んだ時はなんだか寓話のような話だと思ったのだが、実際に舞台で見てみたら、『ゴドーを待ちながら』を濃くしたみたいなかなり不条理な話だったように思う。ただ、所謂不条理劇よりも階級、ジェンダーセクシュアリティについての問題がたっぷり詰め込まれており、一度見ただけでは消化しきれないくらい濃密だがそれでもどことなく惹かれるところのある戯曲だと思った。もうちょっといろいろ考えたいのだが、とても謎めいた作品なのでなかなか考えがまとめきれない。

 ただ、演出がこの戯曲の魅力を完全に引き出しているかと言われるとちょっと疑問があると思った。とくに最初のほうだが、女中役のふたりの台詞回しにかなり堅さがあり、また途中でちょっとトチっているところもあって、あまり調子が良くないように見えた。あと、着るもののデザインが全体的にちょっと疑問で、女中たちが着ている上からすぽっとかぶる黒とグレーの中間みたいなワンピースはあまり女中が着る服らしくないように思ったし、奥さまの部屋にあるドレス類、とくに赤いドレスはただ羽織るだけじゃなくてちゃんと着られるドレスにすべきだと思った(羽織るだけでアイデンティティが変わるっていうのはちょっと安易では?)。