ブラックユーモア炸裂のオムニバス〜『人生スイッチ』(ネタバレあり)

 ダミアン・ジフロン監督、ペドロ・アルモドバル製作のアルゼンチン映画人生スイッチ』を見てきた。ひょんなことから人生のスイッチを押し間違えてトンデモない結末を迎えてしまう人々を描いた6つの短編映画からなるオムニバス作品である。

 テーマが似ているだけで、それぞれの話は全くつながっていない。飛行機に乗り合わせた人々のヤバい運命を描く「おかえし」(これはかなりアルモドバル風だと思う)、勤め先のレストランに仇敵がやってきてウェイトレスのヒロインがびっくりするが、ヒロインのボスはさらにヤバい殺人料理人で…という「おもてなし」(これこそおもてなしだ!!)、車の運転のトラブルが大爆発事故につながる「エンスト」(オチがとても皮肉で笑える)、駐車違反を何度もくらった男の一発逆転劇「ヒーローになるために」、自動車事故を誤魔化そうとした一家を描く「愚息」、結婚式中に花婿の浮気が発覚する「Happy Wedding」の6つの短編が収録されている。

 どれもたいへんこってりしたブラックユーモア炸裂で、好みはあるかもしれないが私はどれもすごく笑ってしまった。一応、「ヒーローになるために」や「Happy Wedding」はハッピーエンド…なのだが、「愚息」なんかはとんでもないバッドエンドで、それぞれの話のオチの付け方に変化があるので飽きないというところもある。どれも不条理劇といえば不条理劇なのだが、ちょっとラテンなノリで濃い感じが特徴かもしれない。登場人物の行動がどいつもこいつもちょっとしたことをきっかけにどんどんエスカレートしていって引き際というものを知らない感じがあるのだが、それでもあまり不愉快な過剰さがなく、笑って見られるような撮り方をしていると思う。

 映像的には、「ヒーローになるために」で画面にハッシュタグなんかが出てくるところは、映画でSNS使用を表現するやり方としてはわりとスマートだったと思う。ただ、「エンスト」で手持ちカメラを用いた撮影部分が多くてけっこう酔ってしまったのと、「Happy Wedding」ではわりと盛大に登場人物が嘔吐する場面があるので苦手な人は気をつけたほうがいいかも。