思ったより暗い話〜『ラ・マンチャの男』(ネタバレあり)

 帝劇で『ラ・マンチャの男』を見てきた。松本幸四郎主演で長くやっている演目だが、見るのははじめて。

 枠物語になっており、異端審問を待つため牢獄に入れられたセルバンテスドン・キホーテの物語を監獄の他の人々に芝居で見せる、という構成になっている。セルバンテスは牢名主に申し開きするためにこの芝居を行い、監獄の人々が役者のかわりをつとめるという設定だ。舞台の上に出入り口が設置され、ここから長い階段を降ろして人々が出入りする。舞台が牢獄、上の部分が牢獄の出入り口という設定である。

 おなじみのドン・キホーテサンチョ・パンサの物語をお芝居でやるわけだが、セルバンテスドン・キホーテを縦横無尽に演じ分ける松本幸四郎はやはり魅力があるし、一度は正気に戻ったドン・キホーテがドゥルシネーアことアルドンサの呼びかけでまた狂気に戻って死んでしまい、最後にアルドンサが「私はドゥルシネーアだ」と言って劇中劇がしめくくられるあたりは、非常に夢や想像の力が強調されている終わり方だと思った。これを見た牢名主が感化されるという枠の終わり方もそうである。ただ、全体的に思ったよりけっこう暗い話で、ドン・キホーテが鏡のトリックで無理矢理正気に戻されるところなんかはまるでロボトミーみたいで驚くほど暴力的な治療だと思ったし、またドゥシネーアが強姦されるところの性暴力の描き方はちょっとはっきり良くないと思った。ドン・キホーテの夢に感化されたおかげでドゥルシネーアが強姦されるというのはあまりにも破壊的な物語の運び方だと思うし、あんだけひどいめにあったドゥルシネーアが最後にドン・キホーテをまた夢の世界に導いて終わりというのはちょっと虫が良すぎると思う。