炎の床に横たわりて〜『海賊じいちゃんの贈りもの』(ネタバレあり)

 
 『海賊じいちゃんの贈りもの』を見てきた。

 ダグ(デイヴィッド・テナント)とアビー(ロザムンド・パイク)の夫婦は別居中で離婚寸前だが、そのことを隠し、子どものロッティ、ミッキー、ジェスを連れてスコットランドの高知地方に住んでいるダグの父、ゴーディ(ビリー・コノリー)の誕生日パーティに向かう。ゴーディは癌でかなり具合が悪く、今年の誕生日が最後になるかもしれないということで、スコットランドに住むゴーディの息子ギャヴィンと妻マーガレットは大規模なパーティを計画していた。ヴァイキングの末裔である破天荒なゴーディじいちゃんは息子とその妻たちがあまりにもケンカばかりしていることにすっかりうんざりしており、孫たちの前で「ヴァイキング式に戦士として船に乗せ、火をつけて海に流して欲しい」と漏らす。その後にゴーディじいちゃんは海辺で突然亡くなってしまう。孫たちはじいちゃんの遺志を守ろうといかだを作って遺体を燃やし、海に流してしまったからさあ大変…

 機能不全の家族をなんともいえないユーモアを交えて面白おかしく描き、途中でじいちゃんが死んだせいでさらに騒動が大きくなるというあたりの話の展開は『リトル・ミス・サンシャイン』にそっくりで、この映画が好きだった人には絶対にオススメだ。出てくる役者陣が揃って達者なのも似ている。ただし、舞台がスコットランドで地方色豊かであることや、どちらかというと『海賊じいちゃんの贈りもの』は葬式映画であることもあって、見た目はかなり違う感じに仕上がっている。

 とくに違うのは、『リトル・ミス・サンシャイン』はアラン・アーキン演じるエドウィンがエロじじいであるのに対して、ビリー・コノリー演じるゴーディじいさんは昔サッカーの代表選手でローデシアで狩猟してたとかいうワイルドな経歴のわりにはどうも色恋についてはどちらかというと疎いらしいというところで、そのせいでユーモアの方向性がけっこう違っている。例えばゴーディの友達であるドリーンはレズビアンなのだが、ゴーディの孫たちに向かって「自分がガールフレンドと暮らしてる」とか言ってゴーディが「いやそこはフレンドでいいだろ」と慌てる場面がある。その後ドリーンが「私に任せろ」と言ってレズビアンについて子どもにわかるように…というよりはちょっとホラを交えて説明し、孫たちはレズビアンが魔法の国レズビアの人たちだと思うとかいう面白おかしい場面がある。ということでゴーディはちょっと同性愛とかに偏見があるのかと思ったら、他の場面でミッキーとドリーンの話をするところではそうでもないみたいだ。一方で孫に「お父さんはパラリンピックの選手と浮気してた」とかいう異性間の浮気の生々しい話を聞かされると「ちょっとそういう話はやめてくれ」と言ったりするので、異性同性問わず色恋の話をするのがかなり苦手らしい。全体的に、破天荒なわりに色恋に疎いゴーディが孫の前で色っぽい話が出るとビビっちゃうというギャップが笑うところになっている。

 この他、オフビートなユーモアとしては、細かいヴァイキングネタなんかもけっこう笑える。ミッキーはオーディンに憧れているヴァイキング好きの少年なのだが、ギャヴィンにもらったヴァイキングかぶとの角を「史実に基づいてない」と切り落としてしまう。このミッキーの史実へのこだわりが最後のオチになっていて、ここはネタバレになりすぎるので説明しないほうがいいと思うのだが、とても可笑しい。

 なお、この映画はたぶんベクデル・テストをパスすると思う。短い場面だが、アビーと娘のジェスが話すところがある。