老師と弟子、そしてその限界〜『マイ・インターン』

 ナンシー・マイヤーズ監督の新作『マイ・インターン』を見てきた。


 ヒロインは若き女性経営者ジュールズ(アン・ハサウェイ)。キッチンで始めたアパレル会社が1年半で従業人200名を超える一大事業に発展し、夫のマットは仕事を辞めて幼い娘ペイジを育てることに。大きくなりすぎた会社に外部からCEOを呼ぶかどうか検討しているところに、高齢者再雇用の社会貢献事業の一環として高齢者インターンのベン(ロバート・デ・ニーロ)が入社してくる。最初は社長付のベンとあまりうまくいかなかったジュールズだが、経験豊富でジュールズを全面的にバックアップしてくれるベンとの間にだんだん強い友情の絆ができて…

 軽い気持ちで見ても楽しめるオシャレな職場コメディだが、割合フェミニズム的な問題意識に基づいて作られた作品である。ベクデル・テストはパスするし、ジュールズが働く母親として受ける差別を嘆いたりするところはもちろん、最後にとる選択なんかも職場における女性の自己実現を扱っている。一方でジュールズがうっかり昔ながらの男性性を讃美してしまう場面では、そういうものから解放された存在として若者たちをバックアップしているベンがジュールズをたしなめるなど、伝統的な男性性に対する疑問も描かれている。才能に恵まれた白人女性の企業での努力を描いているという点では、シェリル・サンドバーグLEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』のフィクション編と言えるかもしれない。とりあえず、ハリウッド映画としてこんだけ女性中心の映画を作ってくれるという点でやっぱりナンシー・マイヤーズは期待に添ってくれる監督だし、楽しい映画であることは間違いない。

 しかしながら、これはマイヤーズが極めて古典的でなめらかな語り口を好む監督であることと関係があると思うのだが、基本的にこの映画は「老師と弟子」のフォーマットで作られていて、そこにこの映画の限界(フェミニズムについても、映画じたいの斬新さについても)があると思う。この映画に出てくるベンは、ファンタジーやアクション映画に出てくる老賢人とか武術の老師に近い役どころで、人生の全てを知っている叡智の老人であり、若者を導くための権威も経験も豊富に持っている。ここで老師の弟子が若い男性ではなく、若い女性ジュールズであるところが変化球なのだと思うのだが、全体的に見ると結局「男性が女性を教える」という形になってしまい、実はあんまりフェミニスト的ではない(ここでインターンがおじいさんじゃなくおばあさんだったらもっとすごく新しくてフェミニズム的な面白みのある映画になっていたと思うのだが、実は私はマイヤーズはものすごくおっさん好きなのではないかと疑っているのでたぶん趣味の問題でそういう発想がなかったのかも)。さらにベンがマジで悟りを開いたみたいな完璧な老師として描かれており、あまり失敗したりしないので(ガンダルフヨーダだってもっと失敗すると思うぞ!)、ちょっと人間味に欠けるくらい理想的な老師に見えるところがある。ここも映画としては弱いかも…という気がした。

 あと、一点ヴィジュアルで気になったのは、アップルのプロダクトプレイスメントがうるさいということである。ジュールズは素敵なオフィスを構えているのだが、そのオフィスが全部アップル仕様で、ここそとばかりにオシャレげにマックが映るのでちょっと鼻につく。ただ、iPhone中毒のジュールズはどう見てもマカーなので、ボスがマカーだとああいうオフィスになってしまうというのはまあリアルっちゃリアルなのかもしれない。

 ただ、こういう女性が中心の映画はそもそもハリウッドであんまり作られなくなっている気がするので、まともなロマンティックコメディを見たいという人は是非行くべきだと思う。あと、ナンシー・マイヤーズっていろいろ作品にでこぼこはあるが、そのうちダグラス・サークジョン・ヒューズみたいな感じで評価されるようになっても私は驚かない。