女たちのやさしさ〜彩の国さいたま芸術劇場『ヴェローナの二紳士』

 彩の国さいたま芸術劇場で蜷川オールメールヴェローナの二紳士』を見てきた。

 オールメールらしくセットや衣装はヨーロッパふうのものだ。大きな鏡を設置した舞台にはいろんな大道具が持ち込まれ、市場になったりお屋敷になったりとっかえひっかえ場面が変わる。けっこうごちゃごちゃ物が出てくる場面も多いのだが、シルヴィア(月川悠貴)が自分の部屋からプロテウスなんかと話す場面は舞台にある他の道具類をほぼ取っ払い、真ん中に置かれた大きな鏡の上部にあけられた窓からシルヴィアが顔を出して話すという設定になっている。ちょっと舞台が狭く見えるが、道具の多いごちゃごちゃした雑多な場面と、鏡の中で曇りない女心がクローズアップされる場面が対比されているのは、この芝居の世界観にあっていると思う。

 この芝居はそんなにものすごい人気作ではないと思うのだが、実は私はこれをたぶんライヴで三回見たことがあって、そのうちTwo Gents Productionsというジンバブエの男性ふたりだけでやる上演がむちゃくちゃ衝撃的に面白かったのでどうもそのイメージが強くてなかなか楽しめないところもあるのだが、この上演はそんなに悪くは無かった。私の好みからすると最後、あまり皮肉がなく祝祭的に終わってしまうところがちょっとなぁ…という気がするのだが、まあシルヴィアの怖いつもりみたいだけどなんかちょっとアホっぽくて笑えるお父さんとか、本物の犬(かわいい!!)がはしゃぎまわる演出とか、かなりドタバタ劇っぽい作りだったので、そんなに非常に気になるというわけではない。

 全体的にドタバタっぽい中、とても心に迫る場面だったのはシルヴィアとジュリア(溝端淳平)が話す場面である。鏡の部屋から出てきたシルヴィアを男装したジュリア(身元を隠して不実な恋人プロテウスに仕えている)が呼び止め、プロテウスの贈りものをシルヴィアに渡そうとするのだが、ヴァレンタインを愛するシルヴィアは、プロテウスにかつてジュリアという恋人がいたという噂を聞いているので贈りものを受け取らない。これを知ったジュリアがシルヴィアの徳の高さに感じ入り、自分の友達だと偽ってジュリアのことを話すのだが、この場面での女同士のやりとりはとても優しく思いやりに満ち、2人の恋心もよく伝わってくるものだったと思う。鏡のセットも、2人の心に曇りがないことを暗示していて視覚的に効果が高い。シルヴィアがいなくなった後にジュリアがちょっと面白おかしく嫉妬じみたことを言うが、最後は「やっぱりシルヴィアはいい人だった」というようなことを言いながら大事にシルヴィアの絵を包むあたりもよかったと思う。

 昨日は『恋の骨折り損』、今日は『ヴェローナの二紳士』を見たわけだが、この二作はどちらも男は不実だが女はそうではない、という話である。ただ、あまり暴力性がなく機知がある男たちが出てくる『恋の骨折り損』に比べると『ヴェローナの二紳士』はかなり暴力的だし、不条理だ。このプロダクションはそこまで暴力的というわけではなかったと思うのだが、それでもやはり強姦未遂やいきなりヴァレンタインがプロテウスにシルヴィアを譲ると言い出すあたりの不条理さはあまり穏当とは言えない。一見似ているようでかなり印象の違う芝居なのだという気がした。