女の子にも冒険が必要だ〜ナショナル・シアター・ライブ『宝島』

 ナショナル・シアター・ライブの『宝島』(Treasure Island)を見てきた。言わずと知れたロバート・ルイス・スティーヴンソンの作品の舞台化で、ブライオニー・ラヴェリー台本、ポリー・フィンドレー演出で昨年末から今年の初めに初演されたものである。

 このプロダクションはとにかくセットが大がかりである。最初は宿屋のセットなのだが、奈落で焚いた火が舞台に上がってくるようになったり、細かい工夫が見られる。奈落には他にもいろいろな仕掛けがあり、船上での場面転換の時は奈落から断面で見えるようにした複数階の船室のセットがせり上がってきたり、宝の島で地価に降りる時はこの奈落が船室ではなく地下通路のセットになって上がってきたり、たいへん凝った場面転換がある。さらに船の上から見る空の背景はひとつひとつ星座が輝く作り込んだもので、舞台の上いっぱいに広がる星を見ながらロング・ジョン・シルヴァーがジムに星を使って方向を読むやり方を教えるのである。火薬の爆発やトンネルの崩落などのスペクタクルも満載だ。

 基本的な話は原作に沿っているが、かなり改変がある。一番の改変はキャストの性別及び民族で、主人公のジムは少年から少女になっており、女優のパッツィ・フェランが演じているし、医者のリヴシー先生も男性から女性になっている。船の乗組員も男性から女性になっていたり、白人から非白人になっていたり、おそらく男女両方、いろんな民族の子どもを対象にした翻案である。こういう性別を変える翻案はかなり工夫を要するものだと思うのだが、この作品は台本と役者の個性がとてもよくあっていて成功していると思う。台本を作ったラヴェリーが途中で放映されるメイキングで「自分は子どもの頃『宝島』が大好きだった。女の子でも冒険をしたり海賊になりたいものだと思ってこの芝居を書いた」と言っており、そういう原作に対する熱い思い入れがうまく機能してわくわくするような作品になっていると思う。基本的にジム(ジマイマ)はおばあちゃん孝行だが独立独歩でなんでもやる自立心旺盛なトムボーイで、「男か女か」ときかれたりすると「私の勝手でしょ」とうまく返したりする(たしかに、男だろうが女だろうか本人の勝手だというのは一理ある)。女優のパッツィ・フェランは20過ぎているらしいのだがまるで少女か少年かというような中性的な要望で、ユーモアのセンスもあり、とても役柄にはまっている。リヴシー先生たちがおばあちゃんを説得してジムを船に乗せるために「女の子にも冒険が必要」という言葉を使うが、こんな勇気がわいてくるようなセリフで元気づけられて船に乗ったジムはロング・ジョン・シルヴァーをはじめとする大人から船の上でいろいろなことを学ぶ。ところがジムは賢い子なのだがなにぶん世間知らずな子どもなので、途中で大失敗をしでかしてしまう…ものの、最後は持ち前の機転で大活躍する。

 おそらく『宝島』で一番のもうけ役であるシルヴァーの役は『ドクター・フー』シリーズに出演していたアーサー・ダーヴィルが演じている。シルヴァーは魅力のある悪役で人当たりがよく、大人にも子どもにもウケがよさそうな機知の持ち主だが、実は悪巧みでいっぱいだ。ジムが女の子になったことで最後かなりダークな展開があり、シルヴァーがジムにキスして自分の悪行に参加させようとするというちょっと未成年者誘惑を思わせる場面がある。ここでジムがシルヴァーの悪い色気に籠絡されず、「私にはこれは早すぎる」と言ってシルヴァーに幻滅するところはジムの賢明さを示していると思う。

 今まで私が見た舞台の中ではかなりうまく性別変更をやっている作品でもあり、凝ったセットや役者の好演もあり、とても楽しめる作品だったと思う。もうほとんどの映画館で終わってしまったようだが、機会があれば是非見てほしい。