いつもの「フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための5作品」シリーズで、歴史関係のものを…というリクエストがあったので、今日はそれにおこたえしようと思う。
とりあえず、今までのシリーズはこちら。これの続きである。
「フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための本5冊(1)物語・ノンフィクション編」
「フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための本5冊(2)理論・学術・専門書編」
「フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための本5冊(3)フェミニスト批評編」
「フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための映画5本(1)歴史映画編」
とりあえず女性史やジェンダーがテーマの歴史学の本で、私が今までおもしろいと思ったものをおすすめしてみる。あまり「フェミニズム」が前面に出ていなくても、女性の歴史について考える時に入りやすそうだと思えるものをピックアップしたつもりだ。前に「フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための本5冊(2)理論・学術・専門書編」で選んだものは基本的に入れないことにした。また、私の専門分野に近いところに偏ってしまったので、アフリカとかアジア、中南米の女性史が全然入らなかったのが痛い。誰かこのへんの女性史本をまとめてもらえませんかね…
・リリアン・フェダマン『レスビアンの歴史』富岡明美、原美奈子訳(筑摩書房、1996)
歴史の中で隠蔽され、見えない状態に置かれているレズビアンたちの姿を丹念に拾い集めた歴史書である。20世紀アメリカを中心に、女性同士の「ロマンティックな友情」に基づく共同生活から同性愛者解放運動まで、いろいろな史料を用いてレズビアンの女性たちの経験を記述している。女性同士の愛情が男性から(いわゆる「性的に解放された」ような男性であっても)は二次的なもの、一過性のものと見られがちなことなど、社会の女性同性愛に対する偏見にも鋭く切り込んでいる。
・若桑みどり『象徴としての女性像―ジェンダー史から見た家父長制社会における女性表象』(筑摩書房、2000)
女性史というよりは美術史に入る本だと思うのだが、若桑みどりの著作はどれもオススメだ。女性表象に関する細かい分析を通して、たとえ女性が美しく描かれていたとしてもそれが一概に女性のポジティヴなイメージといえるものではないことを教えてくれる。表現にはいろいろ隠れたメッセージの罠があるのだ。
・ジョーン・W・スコット『ジェンダーと歴史学』荻野美穂訳(筑摩書房、2004)
ジェンダーと歴史の本としては既に古典に近いものである。この本に出てくるジェンダーの定義はたいへん有名で、私が大学1年生の時にはじめてとったジェンダーの授業はスコットの定義からはじまるものだった。我々の考え方や歴史を規定している知の体系とがっぷり四つに組んだ骨太な歴史理論の書である。ちょっと難しいし長いので、体力がある時にどうぞ。
・ルドルフ・M・デッカー 、ロッテ・C・ファン・ドゥ・ポル『兵士になった女性たち―近世ヨーロッパにおける異性装の伝統』大木昌訳(法政大学出版局、2007)
初期近代ヨーロッパにおいて生きるために男装した女たちの記録を収集・分析した研究書である。男装したほうが安全や稼ぎの点で有利だとか、愛国心にかられて男装して兵士になったとか、いろいろな理由が分析されている。また、こうした女性たちが大衆文化の中でどうとらえられていたのか、どういう非難と驚嘆を浴びていたのかについても分析がある。
・田中ひかる『生理用品の社会史: タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房、2013)
既にこちらでちょっと書評しているが、アンネナプキン以前の時代から現在の布ナプキン推進運動まで、広告などのエフェメラ類も活用しつつまとめた社会史研究である。生理用品とか昔ならばあまり顧みられなかったようなモノがきちんと注目されるようになったのは女性史の大きな成果だと思うし、こういう傾向は女性史に留まらずいろんな分野で見られる。