フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための本5冊(5)文学編

 「フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための5作品」シリーズで、「フェミニストとしてすすめる、フェミニズムに関心を持つための本5冊(1)物語・ノンフィクション編」だけでは物足りないのでもっと文学作品だけ選んでみてほしいという要望があったため、今日は文学作品でおすすめのものを5本、選んでみようと思う。前回選んだ作家の本は基本的に選ばないことにする。



アン・ブロンテ『ワイルドフェル・ホールの住人』(The Tenant of Wildfell Hall, 1848)
 アン・ブロンテは姉のシャーロットとエミリーの影に隠れた地味な作家だが、代表作『ワイルドフェル・ホールの住人』は昼メロみたいな起伏があってかなり面白く、かつ執筆当時のちょっとした過ちで女性がどんどん不幸になってしまうような社会のあり方を鋭く批判した作品である(以下ネタバレ注意)。ヒロインのヘレンは世間知らずな若い時にカッコいいと思った男ハンティンドンと結婚するが、このハンティンドンはとんでもねえ酒浸りの暴力男だった。ヘレンは飲んだくれるばかりか不倫に子どもの虐待までやってのけるクズ夫に悩まされるが、ヴィクトリア朝の法律の中ではロクに離婚すらできない。ヘレンはとうとう息子を連れて逃げることにするが、その運命やいかに…そしてヘレンを純粋に愛するギルバートとの恋模様はいったい?

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アーシュラ・K・ル=グウィン『闇の左手』(The Left Hand of Darkness, 1969)
 『ゲド戦記』その他いろいろ有名な作品を書いているル=グウィンだが、これはフェミニストSFの金字塔と言われている作品である。一般的に地球上の我々が考えているような男女の性別が無い社会を緻密な設定と巧みなストーリーテリングで描く。こういうすすめ方をするのはあんまり好きじゃないが、深く考えさせられる一方、けっこう泣けるSFでもあると思う。



・トニ・モリスン『青い眼がほしい』(The Bluest Eye, 1970)
 トニ・モリスンはいろいろ複雑な技法を使う作家で、内容がかなり鬱になるような作品ばかりだということもあり、いろいろとっつきにくいところもあると思うのだが、間違いなく20世紀の最も偉大な小説家のひとりだろうと思う。この作品は自分の肌や眼の色に劣等感を抱いているアフリカ系アメリカ人の少女ピコーラがたどる悲劇的な運命を描いた作品で、人種差別、虐待、性暴力、狂気などの暗いテーマを力強く扱っている。

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・マリオン・ジマー・ブラッドリー『アヴァロンの霧』シリーズ(The Mists of Avalon, 1983)
 アーサー王伝説を主題に、従来の男性中心的、キリスト教中心的な見方から離れてフェミニスト的な再解釈を行ったファンタジーである。すごく単純化して言うと、滅び去る女神の世界と広がるキリスト教的不寛容に関する物語だ。かなりの大作だが、ケルトの光と影の中、神々(に対する信仰)の興亡と運命に翻弄される人間たちの姿がドラマチックに描かれるので全く飽きずにワクワクしながら最後まで読むことができる。

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・ジャネット・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』(Oranges Are Not the Only Fruit, 1985)
 ウィンターソンの半自伝的な小説で、ヒロインであるジャネットを中心に、狂信的なキリスト教徒の母親との関係、レズビアンとしての目覚めなどを軸として展開する成長物語である。けっこう深刻な題材を扱っているがユーモアがあり、今回選んだ小説の中では比較的気軽に読めるほうだ。

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