舞台の夢〜ジュリー・テイモア『夏の夜の夢』

 ジュリー・テイモアの『夏の夜の夢』を見てきた。2013年にアメリカで上演された舞台を撮影したものである。

 テイモアは映画と舞台両方で仕事する演出家なので、この作品はふつうの舞台を撮ったものよりもかなり気合いが入っている。カメラもたくさん使っていろんな上演をつないだらしいのだが、話している役者にカメラが寄ったり、普通客席からは見えないような角度で撮ったり、だいぶ映画っぽい撮り方になっていると思う。

 舞台は周囲三方に客席がある四角いスペースで、かなり大がかりなものである。全体的にこの舞台はパックの夢(つまり観客はパックであり、夢を見る人である)というモチーフで作られており、シーツや枕が山ほど登場する。まず、最初にキャサリン・ハンター演じるパックが木の上のベッドで寝ているところからはじまり、この木がカットされてパックがベッドのシーツごと上昇していくという非常に幻想的な導入からはじまる。この場面にかぎらず、全体的に吊り物や奈落を使った入退場が多く、さらにこの入退場がシーツを巻き込んだり(床一面に広がったシーツごと登場人物が奈落に消えていくというびっくりするような場面転換がある)してまるで夢を区切るかのような場面転換が行われている。色調は夜の寝室を思わせる白と黒を基調にかなり派手な照明やプロジェクションを使用している。私は夏夢の妖精の世界を白黒基調にするのはあまりいいと思ったことがないのだが、これは白黒基調のデザインに色のあるプロジェクションをうまく使ってとらえどころのない夢の世界を綺麗に表現しているのでさすがだと思った。とにかくヴィジュアルが凝っており、演劇的なイリュージョンに満ちているので、漠然と見ているだけですごく楽しい。

 演出は全体にちょっと不条理な笑いに満ちたものである。4人の恋人たちは森の中で大騒ぎでケンカをし、服まで脱いでかけずり回ることになるのだが、ここが非常にドタバタしていて可笑しいんだけれども過剰にはなっていない。ボトムとタイターニアのやりとりはわりと上品な笑いにまとめていると思う。アテネの大根役者たちの劇中劇は少々ひねった演出で、最初はメチャクチャなのだが最後はなんとか頑張って形をつけました、というような演出になっており、徹頭徹尾バカにするというよりは下手クソでもまあやる気は認めましょう、というようなまとめ方になっていたと思う。

 役者の演技もとても素晴らしい。一番すごいのはパックを演じるキャサリン・ハンターで、年齢も性別も不明でものすごく人間離れしているが観客に愛される親密感がある。小さな体で舞台を動き回る溢れる敏捷さとエネルギーといい、軽快で笑いのつぼをおさえた台詞回しといい、文句のつけようがなかった(ただ、日本語字幕の一人称が「僕」になっているのはどうなのかな?もうちょっとアンドロジェナスな感じの演出じゃなかった?)。このちっちゃくて素早いパックに、いかにも堂々としたデイヴィッド・ヘアウッドのオーベロンが並ぶと非常に映える。あと、アマチュア芝居でシスビ―役を振られるフルートの役者さんの顔と名前になんか見覚えある気がする…と思って調べたら、なんとこのザカリー・インファンテは『スクール・オブ・ロック』で照明係ゴードンを演じていた役者さんらしい。これにはかなりビックリした。

 全体的にとても完成度が高い舞台で、撮り方も工夫しており、非常にオススメだ。