ちょっと研究生活にリアリティがない〜『Re: Life』

 ヒュー・グラントの新作で、マーク・ローレンスが監督した『Re: Life』を見てきた。『ラブソングができるまで』のチームで、話の展開もかなり似ている。


 主人公のキースはかつてアカデミー賞を取ったが今は落ち目の脚本家で、仕事が無いためビンガムトン大学でライター・イン・レジデンスとして脚本を教えることにする。しょっぱなから学生と寝てしまったり、全く授業をやる気がないキースだが、シングルマザーの学生であるホリーと会って…

 全体としてはフツーのロマンティックコメディで、とくにものすごくよくできているというわけではないし、『ラブソングができるまで』の二番煎じでもあるのだが、そんなに不出来というわけではなく、よい後味で終わる作品である。とくにだんだん授業がうまくなっていくキースを見ているとちょっと他人事とは思えないところがあり、「あ、私もああいうふうに授業やってみようか…」とかちょっと思ってしまうところがあった。

 ただ、全体的に大学の描き方がけっこうじっくりきちんとしているにもかかわらずところどころ「??」というような描写があった。キースが学生に手を出した件に対する学科長ハロルド(J・K・シモンズ)の対応とかは「まあこうなるだろうなー」という感じでいかにも大学教員ならわかる!という感じだったのだが。
 
 まず、いくら客員のライター・イン・レジデンスだからといって、面接も無しでいきなり大学に就職なんてことがあるのだろうか…ただ、どうも既に決まっていた先生が急死→学期がすぐ開始ということでもの凄く急いでいたようなので、その場合はそういうこともあるかもしれない(あのスケジュールだと到底、公募なんかやっているヒマはないだろうし、たぶん大学の人たちは後任を探すためにパニックだったろう)。

 さらに、英文学の研究者として一番疑問なのは、ジェーン・オースティンの研究者であるウェルドン先生(アリソン・ジャニィ)が、キースに言われるまで『クルーレス』について何も知らなかったことである。『クルーレス』は英文学者界隈ではかなり有名な映画で、The Cambridge Companion to Jane Austenにも、北米オースティン協会のリストにも載ってる。オースティンの権威であるらしい研究者がこの映画の名前も聞いたことが無いというのはかなり不自然だ。見たことはなくても、論文で読んだり学会で発表を聞いたりして名前くらいは知っているはずだと思う。ちなみにジェーン・オースティンの学会って摂政時代風舞踏会がついたりするものでけっこう派手だったりするので、オースティン研究者があんなにお堅いというのはちょっと英文学者にはなかなか想像しにくいところがある。ブロンテとかの研究者にしたほうがよかったのでは?

 なお、この映画はたぶんベクデル・テストをパスする…と思うのだが、微妙である。ウェルドン先生が学生とレポートについて議論するところでパスすると思うのだが、途中からキースが話に割り込んでくるのでちょっとこれをパスと見なせるかわからない。