ハンガリーからやってきた壮絶アニマルパニックホラー〜『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』(ネタバレあり)

 ハンガリー映画ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』を見てきた。

 主人公は13歳の少女リリとその愛犬である雑種のイヌ、ハーゲンである。リリの両親は離婚しており、リリは母の留守中、一時的に父ダニエルの家に預けられるが、雑種犬にかかる税金を嫌ったダニエルはハーゲンを勝手に捨ててしまう。リリはハーゲンと再会したいと思うが、やがてハーゲンはヤミ闘犬業者につかまり

 これ、めちゃくちゃ変な映画である。前半は親が子どものイヌを勝手に捨てるなど虐待をしていたり、政府が雑種犬に高い税金をかけるなど不適切な政策をしたせいでかえって野良犬問題が悪化したり、全体的に子どもとかイヌといった弱い存在に対してきちんと責任を果たさず、いじめを行う人々に対する社会諷刺映画…と思って見ていたら、後半、突如として壮絶アニマルパニックホラーになる。闘犬業者に薬を盛られ、変貌したハーゲンが野犬保護施設の職員のノドを食いちぎる場面とか結構リアルに血が出ており、前半のトーンと違いすぎてちょっとびっくりする。イヌたちが人間に復讐する場面はちょっとヒッチコックの『』を思わせる感じだ。

 別に見ていてつまらない映画ではないし、二匹のイヌが協力して演じるハーゲンをはじめとした動物たちの演出は大変良い。しかし人間のほうの演出については欠点がかなりたくさんある。まず、前半と後半のトーンが違いすぎるのは欠点だと思うのだが、まあこれは作風もあるのでたいしたことではない。もっと大きな問題として、どうしようもない父ダニエルがなんか後半、急にリリを心配するいい父になり、リリがそれをあっさり受け入れてしまうところで、この展開は説得力がなさすぎるし、また「虐げられた者の反逆」という全体のモチーフからしてもあっさり解決が行われすぎていて非常に物足りない。さらに個人的に一番嫌いだったのはやたら手持ちカメラで撮っていることである。私はもともと手持ちカメラ撮影が大嫌いなのだが、この映画はわざとらしくカメラを揺らすことで無駄に臨場感を出そうとする演出が多く、さらには「これ手持ちっていうかただのピンぼけじゃない?」くらいブレてる映像もあったりして、全然、リアルな効果をあげているとは思えない。もうちょっとカメラを固定して、いろんなものをじっくり撮ったほうが、昔のホラーやスリラーみたいな演出に似合うのではと思う。

 なお、この映画はちょっと微妙だがベクデル・テストをパスすると思う。オーケストラの場面でリリがオケの仲間の少女(名前失念、ただ名前じたいはあったはず)とイヌの話をするところがあるからだ。