マット・ルーカスが心配だ…『パディントン』(ネタバレあり)

 『パディントン』を見てきた。

 地震でペルーの森にあるすみかを失った若いクマのパディントン(声:ベン・ウィショー)は、高齢のおばにすすめられ、かつてクマたちによくしてくれたという探検家が住んでいるロンドンにひとりで密航。難民同様でパディントン駅に降り立ち、ブラウン家に拾われる。ブラウン家の母親で挿絵画家であるメアリ(サリー・ホーキンズ)と息子のジョナサンは最初からパディントンに優しくしてくれたものの、父親であるリスク管理専門家のヘンリー(ヒュー・ボネヴィル)と娘のジュディはなかなかパディントンになじめない。さらに自然史博物館の剥製師であるミリセント(ニコール・キッドマン)がめずらしいクマであるパディントンを剥製にしようと狙いを定めて…

 子どもから大人まで笑って楽しめるようにたいへんよく考えて作られた映画で、ハラハラする冒険あり、怖い展開あり、女装のヘンリーがお色気をふりまくギャグあり(!?)、役者陣の芸達者もあいまってあっというまの一時間半である。サリー・ホーキンズとヒュー・ボネヴィルのブラウン夫妻やニコール・キッドマンのミリセント、ジュリー・ウォルターズのミセス・バードなどは役者の個性によくあった役柄だし(ベクデル・テストはクリアする)、礼儀正しい英語を話すわりには世間知らず(森で育ったから当たり前だが)で破天荒なパディントンベン・ウィショーが吹き替えていてキャラがピッタリだ。パディントンは一挙手一投足がとても愛らしく、千両役者である。ロンドンの街を生き生きと描いた映像も良く、ポートベローマーケットあたりは実は私が昔住んでいた地域なので個人的に愛着が湧いた。

 子どものためのかわいい映画である一方、この作品は大人が見ると人種差別や帝国主義批判というかなり深刻なテーマを扱った映画だ。かわいいクマのパディントンは明らかに戦争や災害の被災による難民を意識したキャラクターで(もともと作者のマイケル・ボンド第二次世界大戦で戦禍を逃れて疎開した子どもたちをヒントにパディントンを作りあげたらしい)、パディントンを引き取ったブラウン家の近所に住んでいるカリーさん(ピーター・カパルディ)がパディントンにいやな顔をするあたりは露骨に地域の新参者に対する人種差別を思わせる描き方になっている。そんな因業おやじでパディントンをいじめていたはずのカリーさんが、ミリセントがパディントンの命を狙っていると知るやショックを受けてブラウン一家にミリセントの悪巧みを知らせるあたり、想像はできる展開だがなかなか人間味があって面白い。ミリセントのお父さんであるモンゴメリー帝国主義的な地理学協会の方針を無視してクマを剥製にして連れ帰ることを拒んだせいで学界を追放され、ミリセントがその帝国主義的な夢を再び実現させようとするが挫折する、という展開も帝国主義、人種差別主義批判がこめられている。

 しかしながら私が一番気になったのは、タクシー運転手のジョーの運命である。ジョーの役はイギリスの有名なコメディアン、マット・ルーカスが演じているのだが、ジョーは悪いことをしたわけではないのにミリセントに手ひどく拷問されてテムズ川に落とされており、その後出てこない。縄を切って落とされたのでたぶん死んではいないだろうと思うのだが、ミリセントはパディントンだけではなくジョーに対しても殺人未遂に近い行為を働いており、さらにワシントン条約かなんかに複数回違反しているっぽいのに実刑がつかないとは…!もし次回作があるなら是非ジョーの無事なところを見たいので、今度はバスの運転手かなんかの役でまたマット・ルーカスを出してくれないかな…