とてもよくできたお芝居、ではあるのだが…『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(ネタバレあり)

 NTライヴで『夜中に犬に起こった奇妙な事件』を見てきた。マーク・ハッドン原作の小説の舞台化で、15歳の自閉症の少年クリストファーが、ご近所で起こった犬殺害事件を調査することでいろいろなトラブルを暴いてしまい…という内容である。全体としてはクリストファーが自分のことを本に記録していて、それをクリストファーの学校の先生が読み上げつつ出来事を劇中劇として上演するという枠の中に入っているのだが、小説で地の文になっているとおぼしき箇所の読み上げがある以外はそれぞれの登場人物のやりとりになっているので、そんなにわかりにくいものではない。

 とにかく舞台全体の使い方が巧みで、照明や音響を使ってロンドンの地下鉄から数式まであらゆるものを表現する技術には舌を巻く。自閉症ですごく勉強はできるが鉄道に乗ったりするスキルは無いクリストファーを、びっくり人間でもかわいそうな子でもなく、きちんと長所も欠点もある人間らしい魅力的な登場人物として描いているところも良い。

 …ただ、全体的にどうも乗れなかったのは、まあこれはネタバレになるのだが私が個人的に犬が大好きだからである。最初に犬のウェリントンが庭用フォークで師殺されて、実はその犬はクリストファーの親父さんエドが飼い主の女性シアーズ夫人に対する腹いせで殺したということがわかる。クリストファーはそんな残酷な父親とは暮らせないといって母親のところに家出してしまう(これはすごく理解できる)。最後にエドがクリストファーに新しい犬を持ってきて誤るのだが、最初にあんなに残虐な殺し方をしておいてこのオチはちょっと犬好きとしてはかなり許せないと思ってしまった…それはエドは離婚してひとりで息子の面倒を見なくてはならず、つらかったのかもしれないが、犬をフォークで刺し殺すとかいくら腹いせでも残虐すぎると思う。個人的な問題だが、どうもプロットが気分悪かった。