アッシュランド(6)オレゴン・シェイクスピア・フェスティバル、バックステージ・ツアー

 アッシュランド三日目の午前中、オレゴンシェイクスピア・フェスティバルのバックステージ・ツアーに参加した。これは二時間ほどのツアーで、オレゴンシェイクスピア・フェスティバルが持っている3つの劇場、トマス・シアター(一番小さい)、アンガス・ボウマー・シアター(大規模な室内劇場)、アレン・エリザベサン・シアター(夏季のみ稼働するエリザベス朝式のオープンシアター)を見ることができる。ガイドはステージマネージャーの人なので、大変詳しい解説も聞くことができる。

 オレゴンシェイクスピア・フェスティバルでは、だいたいリハーサルも含めると一度に2つから3つくらいの演目をひとつの劇場で走らせるので、そのたびにセットを変えなければいけないらしい(これを「チェンジオーバー」という)。トマス・シアターやアンガス・ボウマー・シアターではこれを実際にやっているところを見せてもらい、またデモのビデオも見せてもらったのだが、毎日だいたい一回、二時間から三時間かけて公演ごとにセットを変えるのだそうだ。夏は演目数が増え、室内劇場ではマチネと夜、一日平均二回の本公演があるので、てんやわんやらしい。

 通しのリハーサル以外に、オレゴンシェイクスピア・フェスティバルでは戦闘場面とダンスがある演目については毎回必ず上演前にそこだけのリハーサルをするらしい。安全のためにはこれが必要だそうで、数年前にやった『ロビン・フッド』では上演時間の半分近くが剣戟なので、役者は戦闘だけで45分も毎日リハーサルを行ったそうだ。こういうリハーサルをしないといけないので、セットのチェンジオーバーは上演開始の二時間以上前に終わらせるようにしているらしい。
 
 アンガス・ボウマー・シアターとアレン・エリザベサン・シアターは地下でつながっており、楽屋や役者のコモンルーム(控え室を指すグリーンルームと呼ばれているが、かなり大きくて控え室というより居間みたい)は共通である。コモンルームは役者が集まる部屋で、上演中に出番がないときはここで休憩をする。ここにはスクリーンがふたつあり、役者はここでそれぞれの劇場でやっている演目を見て、自分の出番が近くなると舞台に出ていくそうだ。役者は一年で複数の役を演じ、さらに代役もつとめることになっているので、人によっては楽屋に複数演目分の道具をしまっておかないといけないらしい。

 オレゴンシェイクスピア・フェスティバルはアッシュランドで二番目に大きい産業(一番目は南オレゴン大学)だそうだが、なにぶんアート産業なので、継続的に雇用されているのは各部門のトップとファンドレイザー部門(資金集めと管理)の人たちだけらしい。役者やデザイナーなどはほとんど一年以下の契約で、とくに役者との契約は毎年実施する演目の都合によってかなり変わるということだ(今年は夏に『ウィズ』を上演するので、アフリカンでダンスができる役者をたくさん雇用したそうだ)。役者はいろんなところからやってくるが、南オレゴン大学の演劇学科で学んだ人たちは優先的にオーディションを受けられるらしい。役者にはフェスのほうで住居を提供しており、まさかの時にそなえて劇場から十分以内のところに家を持っているそうだ。ショーの最中に役者が具合悪くなって代役が必要になり、劇場から車で慌てて代役を迎えに行くなんてこともあるとか…

 アレン・エリザベサン・シアターは冬は毎年修理を行っているそうで、中は工事中だったが見せてもらうことができた。ここはもともと「シャタクア」(Chautauqua)の会場だったそうだ。シャタクアは19世紀末から20世紀はじめに人気があったアメリカの成人教育エンタテイメントで、ガイドさんの話によると「100年前のTED Talksみたいなもの」で、いろいろな講演などが行われていたらしい。1930年代にはこのシステムが廃れて会場が使われなくなっていたが、これに師範学校(今の南オレゴン大学)の演劇の先生だったアンガス・ボウマーが目をつけ、ここで1935年にシェイクスピアの野外公演をはじめた。最初はあまりにも資金がなさすぎて、初年度の役者への給与はボウマーが畑で育てた豆で払ったとかいう話もあるらしい。市から許可を得るにあたり、ボクシングの試合と抱き合わせでやることになったのだが、ボウマーはそのほうがエリザベス朝らしいとOKしたらしい(エリザベス朝の劇場では芝居だけじゃなく剣戟とか熊いじめとかいろんなことをやってた)。最初は演目は『十二夜』と『ヴェニスの商人』ふたつだけで三回しか公演がなかったのだが大好評で(芝居の売り上げでボクシングの赤字をまかなえたとか)、毎年規模が大きくなり、現在は11本の芝居を2月から11月にかけて上演している。

 アレン・エリザベサン・シアターは英国ルネサンス式の劇場なので機構がかなり単純で、複雑な吊り物とかは使えないらしい。このため、ここで『ピーター・パン』を上演したいのだが、ティンカーベルが飛ぶところをどうやってやればいいのか解決できていないのでまだやったことがないとのこと。ただ去年は『ガイズ&ドールズ』をやったそうで、そのときの衣装替えのテーブルがバックステージに貼ってあった。この手の華やかな演目で一番大変なのは衣装替えで、1分以下で着替えしないといけないところがけっこうあるらしいのだが、野外劇場だと暗いのでものすごく大変らしい。衣装係が決まった場所で服を持って待ち構えていて、役者をばーっと脱がせてものすごい勢いで着せるのだとか…早き替えのため、衣装には磁石などがよく使われるらしい。

 こんな話がたくさん聞けてとても面白いツアーだった。ショップでこんな本も買った。↓