もう少し田舎くさいほうが…『イニシュマン島のビリー』(ネタバレあり)

 マーティン・マクドナー作、森新太郎演出の『イニシュマン島のビリー』を見てきた。この作品はダブリンでドルイドカンパニーの上演を見たことがある(ダニエル・ラドクリフ版は見ていない)。

 1930年代はじめのアイルランドロバート・フラハティ監督がドキュメンタリー映画アラン』の撮影のためアラン諸島にやってくる。イニシュマーン島の若者たちは映画に出たいし撮影を見たい!と撮影現場である隣のイニシュモア島に行こうとする。手足の悪い青年ビリーは、島一番の美人ヘレンやその弟でちょっと足りないバートリーがボートを持っているボビーに頼んでイニシュモア島に行くとききつけ、まんまとボビーを騙くらかして同行。そこでビリーがクルーの目にとまり、スクリーンテストのためアメリカに送られることに…

 あらすじだけだとまるでアメリカンドリームの話みたいだが、演劇界のクエンティン・タランティーノことマーティン・マクドナーの作品なのでそうは問屋が卸さない。ブラックユーモアに満ちたほろ苦い笑いの詰まった作品である。

 ケイトおばさんとアイリーンおばさんのお店や、ボートがつないである浜辺などのセットはとてもよくできているし、そんなにつまらない演出というわけではなかった…のだが、ちょっとベテランの役者陣のこなれた演技に比べると若手の演技が大人しすぎたように思う。柄本時生のアホなバートリーはすごくよかったのだが、鈴木杏のヘレンはちょっと1930年代アイルランドの女性にしては洗練されすぎているように思った。ただ、ヘレンが女言葉で話さないのはすごくいい。古川雄輝のビリーはとても穏やかな若者で、このキャラクターとしては性格が優しすぎるのではという気がする。ボビーを騙くらかしたりするんだから、もうちょっと意地っぱりな感じのほうがいいのでは?。あと、英語圏ではこういう時、本当に足の悪い役者を雇って雇用機会を増やすべきだという話が必ず出てくるが(私は必ずしもそうは思わないが)、日本ではちょっとそういうレベルでもないだろうなぁ…昔のアイルランドの田舎の話だという雰囲気を出すだけでかなり若手には難しいのかもと思う。

 演出ほうも、なんかすっきりきれいにまとまっている印象で、全体的にもっとアイルランドの田舎っぽいパワフルさがほしかった(これは台本の翻訳のせいもあるかもしれない)。前にアイルランドで見た時は、西のほうの訛りがすごくて半分も英語がわからなかったのだが、それでももっとかなりパワフルでものすごく笑える芝居だと思った覚えがある。私はもう少し荒っぽい感じでまとめたほうが好きだ。