ボトムが女性、しかし〜Typesプロデュース公演『夏の夜の夢』

 Typesプロデュース公演『夏の夜の夢』を見てきた。演出はパク・バンイル、両国のスタジオ・アプローズでの上演。全体的には、いい試みはあるのがかなりイマイチだった。

 注目すべきなのは、イージアスと職人たちの素人劇団が全員女性ということである。しかしながらこれ、あまり機能していない。まず、イージアスが女性になったことで家父長制による娘の虐待というモチーフが薄れた。さらに冒頭、ライサンダーがディミートリアスに「お母さんと結婚すれば?」と挑発→母親が「たしかに私はディミートリアスを愛しているけど…」というところ、ふつうはイージアスがかなりのおじいさんだったりしてそれに「お父さんと結婚しろ!」という挑発で笑いが起きるのだが、あまり年取ってるわけでもないキレイなお母さんにこの台詞だとシャレにならず、ほんとにディミートリアスとイージアスが不倫してそうでちょっとエグい。
 職人たちを女性にしたところは最初はちょっと有望で、「ご婦人方がライオンを怖がるから…」という台詞が「紳士方がライオンを怖がるから…」と全部男性の繊細さを心配する台詞になっているのはとてもおかしくてよかった。ただ、女のボトムがロバになってからは急にボトムが男言葉でしゃべるようになり、タイテーニアとかなり性的にイチャイチャしたりして、なんか何の説明もなくオスになっちゃったみたいに見えて意味がわからない。なにか性別の自在な変化とかを描きたかったのならもうちょっと工夫してわかるように演出すべきだと思うし、なんでボトムを女にしたのか非常に疑問だ。
 あと、四人の恋人たちが公爵に発見されるところをカットしているのだが、おそらくこのカットのせいでヒポリタの心境が意味不明になっている。最初ヒポリタはぜんぜんシーシアスと結婚したくないみたいで落ち込んでおり、まるで強制結婚の被害者である。ところが二度目に登場してくる、結婚式後の御前上演の場面ではシーシアスとニコニコ話していて、いったいなんであんなにヒポリタの態度が変わったのか全く意味不明だ。本来ならシーシアスがヒポリタを狩猟に誘い、四人の恋人が発見されるあたりでシーシアスが何かカッコいいところを見せてヒポリタの心が和らぐとかいう演出があるべきだと思うのだが、それがないのでさっぱりわからなくなっている。
 演技としては、妖精たちは皆けっこう良かったし、衣装も豪華だった。四人の恋人たちは妖精たちに比べるとちょっと弱かったと思う。とくにヘレナの演出が疑問だ。ヘレナはディミートリアスに恋い焦がれて鬱気味になっているはずだと思うのだが、この演出のヘレナは最初からけっこう派手で色っぽく大仰な感じで、それなのに「自分はぶたれてもついていくスパニエルだ」とかいうような恋煩いの鬱になってないとなかなか言えないような台詞をどんどん言うので、なんか本格的に精神的なテンションがヤバい人みたいに見えることがある。ヘレナは観客の同情をそそる役柄でなければいけないと思うので、あれではダメだろう。