賀来千香子のイケピンク〜銀座博品館劇場『しあわせの雨傘』(ネタバレあり)

 銀座博品館劇場で鵜山仁演出『しあわせの雨傘』を見てきた。ピエール・バリエ&ジャン=ピエール・グレディの戯曲で、フランソワ・オゾンの同名映画の原作である。

 あらすじは映画とかなり似ている。ヒロインのシュザンヌ・ピュジョルはトロフィーワイフとして雨傘工場社長である夫ロベールにないがしろにされ、不倫されても耐える毎日。ところが、労働争議と夫の病気でかつては父のものだった雨傘工場の社長に就任することになる。自分よりはるかにうまく工場を切り盛りするシュザンヌに嫉妬したロベールは、シュザンヌに惚れている革新派の政治家モーリスを脅迫しようとするが、これをきっかけに過去のシュザンヌの華やかな恋愛遍歴までもが明らかになって…

 フランスらしいしゃれた喜劇で、1980年に書かれたいわゆるブルジョワ演劇っぽい感じのコメディなのだが、今でも十分面白い。貞淑で従順な妻と思われていたシュザンヌが実は恋多き女であり、しかも夫ばかりではなく自分こそシュザンヌの子どもの父親と思い込んでいたモーリスまで一杯食わされるあたりが大変笑える。これに目をつけたフランソワ・オゾンは偉かったなと思う。

 セットはピュジョル家の居間で、全体に小さな雨傘を模したカラフルが装飾が施されていて、まずはこの美術がとても可愛らしい。さらにシュザンヌの賀来千香子が物凄く綺麗である。映画ではカトリーヌ・ドヌーヴがやった役だが、不慣れな主婦からだんだん成長して最後はいかにも偉大な家母長という感じにまとめたドヌーヴに比べると、賀来千香子はもうちょっと若く軽妙な感じで、そのままの調子でだんだん「ママは何でも知っている」風を吹かしはじめるあたりがおかしい。選挙の場面などが最後にあった映画に比べると芝居はちょっと短く、これからシュザンヌが政治に進出しておそらく成功するであろうことがほのめかされる程度で終わる。映画のシュザンヌはけっこう最初おどおどしていたがだんだん自信をつけていって最後は有権者に母としての自分の力と権威をアピールするちょっと怖いくらい自信満々な演説をするのだが、芝居ではこれに似た演説が第一幕のクライマックスに登場し、社長に就任したばかりであるにもかかわらず、工員たちに父の娘でありかつ母である自分を上手に売り込むシュザンヌのナチュラルな政治家ぶりが映画よりも強調されていると思う。ちなみにシュザンヌが社長就任の演説のためにドドピンクのドレスで出てきて、皆に「労働者の前に出るんだからもっと地味な格好したら」と言われても「これが私だから」と出ていく場面はサイコーにおかしい。これぞイケピンクだ。

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