ガス・ヴァン・サントのメルヘン心が炸裂大失敗〜『追憶の森』(ネタバレあり)

 ガス・ヴァン・サント監督の新作『追憶の森』を見た。

 妻のジョーン(ナオミ・ワッツ)を亡くしたアーサー(マシュー・マコノヒー)は富士の樹海に自殺をしに行くが、そこでタクミ(渡辺謙)という男に会う。二人で道に迷って森をさまようが…

 個人的にはかなりダメな映画だった。まず脚本がダメだと思う。まあ話が超不自然なのはしょうがないかもしれないのだが(そもそも富士の樹海で英語ができる日本人の男がアメリカ人の自殺者に会うとかいう設定が不自然だ)、アーサーとジョーンの不仲の原因など掘り下げたほうが良さそうなところが全然書かれていない。もうちょっと脚本を整理してちゃんと夫婦の会話とかを書くべきだろう(なお、ベクデル・テストはパスしない)。

 一番ひどいと思ったのはタクミがマジで「謎の東洋人」であることである。最後にタクミが妖精的な何かだったことがわかるのだが、イマドキどこからともなく出てきて西洋人を導いてくれてその後去って行く、全く背景の無い魔法の東洋人なんていう時代錯誤なものが出てくるとは思わなかったのでかなりビックリした。ほとんど森しか出てこないのになんなんだこのオリエンタリズムは。富士の樹海は妖精さんアメリカ男を癒やしてくれる場所じゃないぞ。科学とスピリチュアリズムの対置も凡庸だし、東洋の自然に霊魂とかスピリチュアルを求めるのはちょっとやめて頂きたい。

 あと、数字ばかり書いている科学者(ルイス・キャロルは数学者であった)が森に入っていって、錠剤を飲むと妖精が現れる…という始まり方はそのまんま『不思議の国のアリス』なのに、オチがなぜか『ヘンゼルとグレーテル』になるあたりも謎であった。何かガス・ヴァン・サントのメルヘン愛が炸裂している気がするのだが、その炸裂が全然機能していない。