マリメッコ創業者の伝記ものと思いきや演劇映画、フィンランド版『スティーブ・ジョブズ』〜『ファブリックの女王』

 フィンランドのテキスタイルメーカー、マリメッコ創業者アルミ・ラティアの伝記映画『ファブリックの女王』を見た。

 これ、予告から想像するような「おしゃれな北欧映画」では全く無い。気性が激しく妥協しない理想主義的な経営者アルミが男性社会と戦い、お金がないのに悩まされ、夫とはうまくいかずに不倫の末に酒浸りに陥り、仕事で何度も挫折を経験する様子を描くかなりシビアな話である。アルミは非常にセンスがあるのだが大変つきあいにくそうな感じの独裁的経営者で、そういう人物を美化せずに描いているという点では『スティーブ・ジョブズ』に非常に似ている。演劇的な作りも含めて、『スティーブ・ジョブズ』が好きな人はこの映画も気に入ると思う。

 『ファブリックの女王』はかなり実験的な作りで、一言で言うと演劇映画である。まずがらんとした倉庫みたいなスタジオに女優(ミンナ・ハープキュラ)が出てきて、椅子に座ってひとしきりアルミの人生を説明する。説明が終わり、女優が「私は今からアルミになります」と言って倉庫の外に出て行く。そこでアルミの人生を舞台化するという話になり、製作発表や芝居についてのディスカッション、リハーサルなどが行われるのだが、リハーサルがだんだん本番の舞台になり、映画になり…という感じで切れ目なく「芝居作り」という枠から「アルミの人生」へと移行していく。車内の場面なんかも出てきて、見ているほうは「あ、映画っぽくなってきてるな」と思うようになる。ところがしばらくするとまた役者同士のディスカッションに戻ったりして、常に芝居作りという枠があることを意識させられる。それこそ舞台のように波瀾万丈で、孤独で傷つきやすい性格を隠して常に偉大な社長という演技をしていたアルミの人生を、「人生は芝居である」という伝統的な世界劇場のコンセプトを用いて表現するというもので、たいへん芸術的野心に富んだ作品だ。全部がうまくいっているというわけではない気もするが、話の内容と表現方法を一致させることで物語を面白く見せようとする意欲は大いに買う。

 演劇映画なのだが撮影の仕方にはセンスがあり、舞台をそのまんま撮影したみたいな感じにはなっていないと思う。とくにマリメッコのショーが突然ミュージカル仕立てになり、動くモデルたちを頭上から撮影するというまるでバズビー・バークレイのオマージュみたいな撮り方をしているところは面白かった。

 アルミが女性従業員の発想を大事にしているので女性同士の会話やら対立やらはたくさんあり、クリエイティブなことで意見を戦わせる箇所もあるので、ベクデル・テストはパスする。役者同士のディスカッションで、女優同士が役作りについて簡単な意見交換をするような場面もある。