話は緩いが、音楽はドラマティック〜METライブビューイング『ロベルト・デヴェリュー』

 METライブビューイングで、ドニゼッティ『ロベルト・デヴェリュー』を見てきた。METライブビューイングを見るのははじめてである。

 話はエリザベッタ(エリザベス一世)が自分を裏切ったエセックス伯ロベルト(ロバート・デヴルー)を処刑するまでを描くものである。ロベルトは女王エリザベッタに愛されていたが、親友ノッティンガム伯の妻であるサラと恋仲だった。ロベルトはこのことを隠していたが、これがエリザベッタにもノッティンガムにもバレてしまっておおごとに…

 話は史実と全然違う甘ったるい内容になっており、けっこう展開は緩い。途中に挿入される歌手へのインタビューでも分析されていたのだが、タイトルロールのロベルトが何を考えているのかよくわからず、権力も愛も友情も欲しがって結局全部大失敗するということであまり感情移入できないしそんなに賢くも見えない男なのである。ロベルトは他の登場人物3人から熱烈に愛されているにもかかわらず(ノッティンガムがロベルトに寄せる愛はほとんど同性愛かと思うほど強い)、誰の愛情にも責任を持って報いてやらないので(恋人であるはずのサラに対してもなにやら態度が煮え切らないし)、かなりヒドい人に見える。

 ただ、音楽は大変ドラマティックで、力業でこの緩い話を飽きさせずに最後まで見せてくれる。グローブ座を思わせるようなセット(劇中劇という設定らしい)に絵の中から抜け出してきたような衣装を着た登場人物たが動き回るという美術もとても豪壮だ。ただ、最終幕でエリザベッタとサラ両方が部屋着みたいな服装で人前に出てくる演出はちょっと疑問だった。どちらも非常に立派な貴婦人なので性格に合わない演出である気がするのだが…

 演出としては、エリザベッタ(ソンドラ・ラドヴァノフスキー)が若いツバメに溺れる惨めな老女王ではなく、ある種の威厳と情熱を持った女性として描かれているところが良いと思った。フラれて悲しむ気の毒なおばあさんみたいな感じになってもおかしくはない役に見えるが、最後の場面で統治する者の苦痛を歌う歌詞を背景に死んでいくところは、自由に愛することよりも偉大な政治家であることを選んだエリザベッタが最後に愛の苦悩に直面したということをある程度深みをもって提示していたと思う。あと、妻に愛されていない夫ノッティンガム(マリウシュ・クヴィエチェン)は横暴で魅力のない夫にもなりそうな役柄だが、歌手が頑張ってとても人間味のある役柄にしており、たいへん気の毒な人に見える。

 上演の映像じたいはかなり洗練されており、長い独唱でもカメラを動かして歌手の動きを丁寧に捕らえ、見ている人を飽きさせない。また、途中で入っているインタビューがけっこう面白く、休憩中の歌手に役柄の解釈とかをきちんと尋ねていてなかなか参考になる。寄付をつのる映像とか来シーズンの予告まであるのはとてもアメリカ的だ。