ここはカンザスじゃないみたいよ〜『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(ネタバレあり)

 『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』をみてきた。タイトルからわかるようにマイケル・ムーアの監督作で、ムーアがヨーロッパや地中海の各国に出かけて行って現地の良さそうなアイディアを盗んでくるという「侵略」行為を行う様子を描いたドキュメンタリーである。

 ムーアがいろいろな国に出かけて行って、無料の学費、ちゃんとした学校給食、有給休暇、育児休暇など「アメリカではこんなことありえないよ!まさか!」みたいな情報を獲得して帰ってくるという構成である。日本や取材先であるヨーロッパ・地中海諸国の人たちからすると、こんな素直な出羽守取材はちょっとナイーヴすぎると思えるところも多いと思う。基本的に取材先の国で起こっている問題はあまり取り上げず、よいところだけ取材しているし、またアイスランドの取材なんかではちょっと女性を持ち上げすぎている感じがする。しかしながらアメリカの人たちは我々が考えるよりも本当にアメリカ以外の国に関心が無いらしいので、こういう素朴なドキュメンタリー映画を作る意味があるのだろうと思う。どれくらいそういう人がいるのかは私もよく知らないのだが、アメリカにはたまに「アメリカが世界最高の国であって皆アメリカ人になりたがっている」という認識を持っている人もいるらしいので(まあ日本にもいるけどな)、この映画でアメリカよりはるかに優れた社会保障や税金の運営が各国で行われていたり、「アメリカになんか絶対住みたくない」という人が世界にけっこういるということがわかればビックリするアメリカ人もいるのだろうと思う。さらに最後は「こういう素晴らしい理念はもともとアメリカの建国の理想であったはずなのに…」というちょっと愛国的な落とし方になる。このナイーヴさはやっぱりアメリカの人に見せることを想定して作っているからなんだろうなと思う。

 ただ、取材内容についてはけっこう面白いものも多い。ゴミみたいなアメリカの給食にとてもちゃんとしたフランスの学校給食を比べるあたりはまあジェイミー・オリヴァーの番組とかを見ている人にはお馴染みだろうが、こういうお気楽お楽しみレポートみたいなものにかなり深刻な問題に関する取材を組み合わせてメリハリをつけている。ドイツの学校がホロコーストについてものすごくちゃんと歴史を直視した教育を行っていることをレポートしたり(ここは日本の人にも是非見て欲しい)、ウトヤ島テロの被害者遺族に取材してノルウェーの人たちが自由と公正をむねとする文化に誇りを抱いていることを描き出したり、このあたりはなかなか見応えがある。

 最後に『オズの魔法使い』を出してきて締めくくるところはニクい。アメリカ人なら皆ぐっとくるだろう。