真面目な諷刺、深みのあるキャラクター、なぜかおっさんダンス〜『マネーモンスター』(少しネタバレあり)

 ジョディ・フォスター監督作『マネーモンスター』を見てきた。

 舞台は生放送の金融エンタテイメント番組『マネーモンスター』の撮影現場。放送中にこの番組のホストであるリー(ジョージ・クルーニー)のアドバイスに従ってアイビス社に投資し、アイビス社のシステムトラブルで財産を失ったカイル(ジャック・オコンネル)が銃を持って乱入し、リーを人質にして真相解明を要求する。番組プロデューサーのパティ(ジュリア・ロバーツ)はコントロール・ルームに張り付きながら全力で解決をはかる。一方でアイビス社の広報担当であるダイアン(カトリーナ・バルフ)はアイビス社の対応に疑問を抱き始め…

 あまり期待していなかったのだが、社会派エンタテイメントものとして非常に面白かった。この間『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』を見たばかりで、この映画では金融犯罪を犯した人々がアメリカで適切に訴追されていないことが強く批判されていたのだが、『マネーモンスター』はそういうアメリカの金融犯罪に甘い態度を諷刺した作品だ。一方で暴力的な手段で解決をはかったカイルをはやしたてる人たちに対しても皮肉な視線が向けられており、一筋縄ではいかない社会批判に満ちた映画になっている。

 出てくるキャラクターも皆複雑で一面的ではない人間として描かれている。うさんくさくてチャラい男だが冷酷というわけではなく、ガールフレンドに生放送で手ひどくふられたカイルを気の毒に思って尽力しはじめるリーも、あまり賢明とはいえないが非常に可哀想な人であるカイルも、この2人に付き合う撮影係のレニーも薄っぺらな人間ではない。女性キャラクターの深みのある描き方はこの手の男性キャラのやりとりで進むタイプの映画としては珍しいくらいちゃんとしており、パティは欠点が無いわけではないが極めて有能で人間味もあり、適切な判断力でリーの救出とアイビス問題の解明に尽力する女性として描かれている。最初はアイビス社の方針に従っていたがだんだん自分の良心に従って調査をはじめ、アイビス社トップであるウォルトへの愛情を断ち切って真相解明に奔走するダイアンもいい役だ。カイルのガールフレンドであるモリーが呼ばれてブチ切れるところもお涙頂戴にならなくてよかった。アシスタントであるブリーなんかも小さい役だが、ちゃんと仕事をしている。ベクデル・テストはパスする。

 なお、見所のひとつはジョージ・クルーニーが番組のオープニングで披露するバカみたいなダンスである。これはなかなかのおっさんダンスだ。