80年代東ドイツ、見よう見まねでブレイクダンスを始めた若者たちの熱いダンス映画〜『ブレイク・ビーターズ』

 『ブレイク・ビーターズ』を見てきた。

 舞台は1985年頃の東ドイツ、デッサウ。社会主義政権下の町に、西側からアメリカのブレイクダンスがテレビや映画を通して入っていた。デッサウで体操をやっていた若者フランク(ゴードン・ケメラー)はたちまちブレイクダンスに夢中になり、アレックス(オリバー・コニエツニー)、マティ(ゾーニャ・ゲルハルト)、ミヒェル(セバスチャン・イェーガー)とともにストリートダンスグループを結成。街の通りでダンスをはじめるが、警察はこれをよく思わず、取り締まりをはじめる。ところが東ドイツ全土でブレイクダンスが流行し始めたのに危惧を抱いた娯楽芸術委員会は、フランクたちを「人民芸術集団」に格上げし、ブレイクダンスを「アクロバティック・ショーダンス」としてプロパガンダに使うことを計画。取り締まりを逃れるため、委員会のお墨付きを受けることにしたが、若者たちはだんだん委員会の干渉に不満をつのらせ…

 実際に80年代に東ドイツでストリートダンスが流行っていたという史実があり、それに基づいて作られているらしいのだが、内容はだいたいフィクションだそうだ。とくに最後の「記録から抹消された」パフォーマンスは創作らしい。

 一見地味そうだが、なかなかどうして熱いダンス映画である。新しい芸術や娯楽に飢えている若者たちがアメリカからやってきたダンスに夢中になるあたり、ダンスは物資があまりなくてもできる娯楽だからすぐに広まるんだなと思った。またまた、ダンスをするだけで警察が捕まえに来るというのはどこやらの国a.k.a.日本でも最近話題になっていたことで、東ドイツの昔の話だと言って笑って見てはいられない。さらに最初はストリートダンスを弾圧していたくせに、若者にアピールしそうだということになるとすり寄ってくるお偉いさんたちの描写はなかなか諷刺がきいていて面白かった。社会主義っぽくするため、個人技を見せるのがポイントのブレイクダンスを全員同じ振付で踊らせようとするあたり、発想のダサさがすごく笑える。これも東ドイツだけではなく、現代日本でもよく見受けられる事例だと思う(クールジャパンって、この東ドイツの娯楽芸術委員会と大差ないセンスだ)。

 ダンス映画として好みが分かれそうなのは、ダンスのクオリティを上げるための試行錯誤とかはあまり描かれていないところである。主人公たちはもともと体操選手で身体能力が高く、基本的な体の動かし方をかなり理解しているため、「見よう見まねで踊ったところとんでもねえヘンなダンスになり、まともになるまで試行錯誤」みたいなお笑い展開は無い。ライバルチームとの小競り合いやケガなどはあるのだが、主人公たちがぶつかる壁は芸術的なクオリティによる挫折と復活とかではなく、政治的な干渉である。表現の自由が無いところでは、クオリティみたいな内在的な問題よりも政治的統制という外在的なことがらが最大の問題になってくる。そして自由な表現や他のアーティストとの交流が許されないとなかなかクオリティが上がらない…ため、最後にナレーションで流れるように「東欧のブレイクダンスなんてドイツ統一後は誰も興味を示さなかった」というほろ苦い終わり方になる。

 なお、この映画はベクデル・テストはパスしない。登場人物のうち、まともに台詞がある女性はマティくらいである。