詰め込みすぎて長くなりすぎ~RSC『シンベリン』

 RSCの『シンベリン』を見てきた。演出はメリー・スティール。古代のブリテン王シンベリンの娘である王女イノジェンが親の意向に反して身分の低いポスチュマスと結婚したことから起こるさまざまな騒動を描く物語である。追放されたイノジェンの夫ポスチュマスは友人ヤーキモーと妻の貞操について賭けをするが、ヤーキモーや策略を用いて、実際はイノジェンは夫に忠実であったにもかかわらず、ヤーキモーと不倫関係に陥ったということをポスチュマスに信じさせる。イノジェンは父の後妻である王妃の連れ子のクロテンから横恋慕される一方、騙された夫ポスチュマスからも命を狙われ、えらいことになる。最後はいろいろまるくおさまり、生き別れたイノジェンの兄弟まで見つかって大団円になるのだが、そこまでに非常に複雑で劇的な展開がある。

 RSC版は、いいところはたくさんある演出である。シンベリンを女王にしたせいで全体的に母と娘の物語という印象が強くなり、クロテンの父で女王の王配である公爵が家父長としての権力を振りかざして陰謀を企むというような物語になった。双子の片方が女性だったりする演出もちょっと面白い。ポストBrexitシェイクスピアを意識し、セットも現代ふうにしてイギリスの中のヨーロッパとそこにおける政治的駆け引きを容赦なく描こうという志は高い。また、クロテンが比較的バカじゃなく(バカではあるのだが)、政治的な陰謀をめぐらせようとするが愚鈍だ、というようなキャラになっているところも私は良いと思う。

 ただ、完全に詰め込みすぎてえらく長くなっており、志が成功しているとは言いがたい。まず、ローマ人とか英国外の人々がシェイクスピアのセリフをしゃべらず、わざわざラテン語などで話して後ろに字幕が出るという構成はやりすぎではと思った。ただ、英語の台詞回しもかなり難があり、明瞭さとかリズム感に欠けるので、私は聞いていて「『シンベリン』ってこんなにセリフがムズい芝居だったっけ?」と思ってしまった…のだが、劇評でも台詞回しのひどさがけなされているので、どうも私だけじゃなく皆台詞があまり美しく明瞭に聞こえなかったらしい。また、近未来っぽい破れたりボロっぽかったりする衣装もあまりはまってないと思うところがあった。全体的に演出もとっちらかった印象で、もう少し焦点を絞り、何をしたいのかはっきりさせたほうがいいのではという気がした。明確にやりたいことがわかるような展開なら長くてもいいのだが、このプロダクションは単にだらだら長いという感じで、見ていてかなり疲れた。