不世出の歌姫とダメな取り巻き~『Amy エイミー』

 エイミー・ワインハウスドキュメンタリー映画Amy エイミー』を見た。

 エイミーが歌手として大成功した後に若くして非業の死を遂げたのは有名な話だが、これはそのエイミーの人生を丁寧に追った作品である。十代の頃から卓越した歌声と作曲の才能を示していたエイミーだったが、精神的には安定していたとはとても言えず、あまり頼りにならない家族に囲まれ、男運も悪く、どんどん体調を崩して最後は亡くなってしまう。

 まず、十代の頃のエイミーが歌っている映像がいくつか出てくるのだが、その歌声が既に相当に老成しており、すごい才能を感じさせる。ジャズっぽく渋い曲調であまり一般ウケはしなそうな曲も多いのだが、歌い方はビリー・ホリデイなんかを思わせる巧みなものである。

 しかしながら、才能があって成功しても私生活のほうがうまくいかない。この映画を信じるなら前夫のブレイクはとんでもない男である。淡々とした感じであまり誘導するような描き方はしていないのだが、それでもにじみ出るクズ男ぶりだ。一度ひどい別れ方をした後、エイミーがスターになったら戻ってきて結婚し、ドラッグを教えて金づるにする。浮気をしていたようで、さらに犯罪者になって刑務所に入るのだが、夫の受刑中に新しい彼氏ができたエイミーに対して離婚を請求。さらに死んだ後もしゃあしゃあとインタビューに答えたりしている。たまにブレイクが映った私生活のフッテージが出てくるのだが、「それ余計なお世話じゃない」とか「それは小さいことだけど傷つくからダメでしょ」と思うような発言をずいぶんしており、カンの良い成人女性なら気付くであろうモラハラ男ぶりが短い映像からも垣間見える。そんなクズをエイミーはずっと愛していたというんだから男運が悪いといったらありゃしない。

 さらに家族もあまり頼りにならない。エイミーがとても愛していたらしい父親はエイミーがスターになったせいで舞い上がってお金儲けのことばかり考えていたようだし、エイミーを入院させるのを渋るなど、どうも判断力に怪しいところがある。非常にしっかりしていたらしいエイミーの祖母は亡くなってしまい、そのせいでエイミーはひどいショックを受けたそうである。その他、最初のマネージャーのニックはエイミーの親しい友人で信頼できたようだが、次に出てくるマネージャーのレイは仕事はできそうだが人間関係のほうはどうもダメな感じだった。友人や仕事仲間には恵まれており、インタビューに出てくる友達のジュリエットやローレン、さらに仕事仲間のモス・デフ(ヤシーン・ベイ)などはかなり本気でエイミーを心配していたらしいのだが、いくら良い友人がいても彼氏と家族が両方ダメだとどうもエイミーに健康を取り戻させるのが無理だったらしい。このあたりは、もう何をやってもエイミーの命を救うことはできなかったのだろうかと暗い気分にさせられる。

 いろいろな映像を使っているので、たまに手ぶれがひどくてちょっと酔いそうな映像があったりするのが困るところだが、全体的にはとても充実したドキュメンタリーだったと思う。暗い話ではあるが…