終盤グダグダだが、キュートな映画〜『高慢と偏見とゾンビ』

 『高慢と偏見とゾンビ』を見た。

 ジェーン・オースティンの『高慢と偏見』にゾンビものをマッシュアップした映画である。19世紀初頭のイギリスでゾンビ禍が猖獗を極めており、レディの平均的な教養にゾンビと戦う武術が含まれていたという設定で、ベネット姉妹も中国で学んだ武道でゾンビと戦う。ベネット家の次女であるエリザベス(リリー・ジェームズ)の勇敢で俊敏な戦いぶりに心を動かされたゾンビハンター、ダーシー(サム・ライリー)だったが、お互いのプライドや見栄が邪魔してなかなか恋が進まず…

 話の展開はかなりグダグダである。シャイでちょっとトロいはずのジェーンまで優秀な武道家になっているのはちょっとキャラにあわないだろうとか、武道家のレディ・キャサリンに取り入りたいはずのコリンズ師がエリザベスに「結婚したら戦いはやめて頂けると…」とか言ってくるあたりがちょっと強引だとか、前半からいろいろ細かい綻びはあるのだが、とくに終盤にゾンビとの死闘が始まるとかなり展開がムチャクチャになってくる。レディ・キャサリンの家に突然ベネット姉妹が避難することになったりとか、いろいろ力づくで危機が解決されたりとか、もうちょっと脚本と演出でなんとかなるだろうと思うようなダメなところが多い。

 とはいえ、アホっぽくて展開もグダグダであるにもかかわらず、ところどころなんとも言えないキュートな魅力があるので私はけっこう気に入った。史実でも精神疾患で苦しんでいたジョージ三世が残虐なゾンビとの戦いでショックを受けて心労で狂ったという設定になっているあたりはクスリとしてしまうし、リリー・ジェームズ演じるエリザベスが魅力的で、ベネット家の姉妹が陣を組んでゾンビと戦うところは見ていて楽しい(もうちょっと殺陣に凝ってもいいと思うが)。終盤の戦闘ではエリザベスがダーシーと対等に助け合いながら戦っており、エリザベスがカッコよくダーシーの命を救うところもあって、見せ場がきちんとある。脇役もけっこう達者で、とくにだいたい初老のご婦人にしたりすることが多いレディ・キャサリン役をなんと『ゲーム・オブ・スローンズ』のサーセイ王妃ことリナ・ヘディが演じており、アイパッチをつけて武装したセクシーな武闘派中年美女で見た目がカッコいい(中身はレディ・キャサリンなんで、いつも大仰でプライド高い変人で見ていて笑えるが)。レディ・キャサリンとエリザベスがダーシーのことで戦いながら不覚にも互いを尊敬しはじめてしまうあたりは相当にむちゃくちゃだがちょっと百合風味でなんか可愛らしいところがある(この場面をはじめ、いくつか女性同士が戦闘などについて話すところがあるのでベクデル・テストはクリアする)。コリンズ師をマット・スミスが楽しそうに演じているところもはまり役だ。

 と、いうことで、話の展開のグダグダっぷりに耐えられればけっこうオススメである。

 追加:念のために書いておくが、ジェーン・オースティンは18世紀末〜19世紀初頭に著作した作家で、時代区分でいうと「ジョージアン」(ジョージという名前の王がいた時代、1714年から1830年頃まで)あるいはその下位区分である「リージェンシー」(摂政時代、18世紀末から1830年代半ばくらいまで)の小説家である。映画も当然、その時代を背景にしている。「ヴィクトリアン」はヴィクトリア女王の治世(1837年以降)を指すのでもっと後だし、「中世」はいつ頃を終わりにするか議論があるがまあ1500年くらいまでである。オースティンを「ヴィクトリアン」とか「中世」の作家と言ってはいけない