不思議な味わい~『ロブスタ−』

 ヨルゴス・ランティモス監督『ロブスター』を見た。

 独身者は45日以内にパートナーを見つけないと動物に変えられてしまうというディストピアが舞台である。妻と別れた主人公のデイヴィッド(コリン・ファレル)はパートナー探しのために独身者が強制的に送られるホテルを脱走し、森で暮らす独身者の群れに加わるが、この群れでは逆に恋愛が禁止だった。近眼の女(レイチェル・ワイズ)と恋に落ちてしまったデイヴィッドだが…

 強制的なカップル文化と極端な禁欲の両方を痛烈に皮肉った諷刺SFなのだが、淡々としたタッチであまり熱くなったりわざとらしくなったりせず物語を展開しており、非常にクールでバランス感覚のある映画である。最後どうなるのかを明示的に見せずに余韻を残して終わらせる撮り方もいい。とくに面白いのは、強制的なパートナー探しもアセクシャルな独身生活も否定して自由に生きようとしているように見える主人公の2人が、結局「愛し合う者には共通性がないといけない」という、社会に押しつけられた規範から最後まで逃れられないところである。非常にひねった展開で不思議な余韻を残す作品だ。

 主役の2人はもちろん、独身者のリーダーを演じる氷の女王のようなレア・セドゥや、デイヴィッドと施設で一緒になる仲間を演じるベン・ウィショージョン・C・ライリー、薄情な女を演じるアンゲリキ・パプリアなどの演技も良い。リーダーとメイドが今後の計画について会話するところでベクデル・テストはクリアするのだが、ちょっと問題なのはこの映画ではデイヴィッド以外の人物に名前が無いので、この2人の女性は名無し同士の会話ということになってしまうことである。ベクデル・テストは名前のある女性2人の会話を条件にするのがふつうなので、ちょっと微妙だ。