明るく楽しい人だからといって心にトラブルが無いとは限らない〜『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』

 ジャニス・ジョプリンドキュメンタリー映画ジャニス:リトル・ガール・ブルー』を見てきた。

 とりあえずジャニスの人生がつらくなってしまった一因としては高校や大学で変わり者としてひどいいじめを受けたことがあるようだ。テキサスの保守的な町になじめず、大学では「醜男ランキング」に入れられかけるというあからさまな嫌がらせを受け、成功して高校の同窓会に行っても邪魔者扱いだ。いじめるほうはいじめたことなんか大人になれば忘れてしまうが、いじめられたほうは一生そのことを覚えていたりするものだ。サンフランシスコで気の合う音楽家たちと暮らすようになってからも、この映画によると、少女時代に身につけた孤独と不安がどうもジャニスの人生に影を落としていたようだ。

 そんなジャニスが幸せになれるのは歌っている時、ステージにいる時だけだったらしい。このドキュメンタリーには歌の映像がふんだんに含まれていて、ジャニスの溢れる才能をこれでもかというほど見せつけてくれる。ただ、ジャニスの顔や唇を舐めるように撮ったちょっとフェティッシュな印象を与えるほどじっくり近づいたショットが多く、歌の盛り上がりに伴う細かい表情の変化がよくわかるわりには、カリスマ的なステージプレゼンスがわかる引きで全身を映す映像があまりなかったのは少々残念だったかもしれない。

 最近エイミー・ワインハウスのドキュメンタリー『Amy エイミー』を見たのだが、ジャニスとエイミーの人生はちょっと似ている。いかにも頼りにならなそうな家族を持っていたあたりもちょっと似ている(ジャニスの弟がインタビューに答えているのだが、まあこんな家族じゃ無理だろうなと思うような発言をしてた)。ただ、ジャニスの時代はやはりサイケデリックとフラワーパワーの時代でちょっとのびやかな雰囲気があるし、
また男運・女運(ジャニスはバイセクシャルだった)についてはエイミーほどひどくなかったような感じなのだが、それでも孤独に苛まれたジャニスはちょっとしたことでドラッグを過剰摂取して亡くなってしまった。ジャニスは明るくてユーモアがあり、非常にエネルギッシュに仕事をする女性だったらしいのだが、そういう人が鬱とか孤独に基づく心のトラブルを抱えないとは限らない。最後にいろいろな女性アーティストや女優が出てきてジャニスの影響を語るのだが、もっと長生きして後身を指導してほしかったと思ってしまう。