崩れゆく陰鬱な家庭〜紀伊國屋ホール『幽霊』

 紀伊國屋ホールでシーエイティプロデュース主催・製作、鵜山仁演出『幽霊』を見てきた。イプセンの有名作で、既に一度見たことがあるのであらすじはそちらを参照。

 前回見たプロダクションはわりと白っぽくて広い北欧ふうなセットを使っていたのだが、このプロダクションはいろんな家具が置いてある19世紀風の暗い部屋を中心に、植物がはえかけた壁を後ろに配置している。壁には穴があけられ、ここが出入り口の役目をする。壁の後ろに登場人物が立って話すと反響音がするという設定になっており、さらに実際にプロジェクションで「幽霊」を映すなど、陰鬱で幻影だらけの空間が表現されている。ただ、ちょっと物をたくさん配置しすぎて、アルヴィング夫人が左袖に座るあたりとかはややせせこましく見えるところもある。最後にセットの壁がぐにゃっと崩れて、陰鬱な家庭の崩壊を視覚的に示すようになっている。演出の特徴としては、第一部の最後を第二部の最初とちょっとだけダブらせているところなどがあげられると思うのだが、これはなぜなのかちょっとわからなかった。

 朝海ひかるのアルヴィング夫人はかなり若々しくて美人なのだが、ちょっと抑えすぎな気もした。あと、ちょっと衣装のミスマッチが気になった。黒っぽい柄の長いスカートがついたドレスで、上半身の肩の部分だけが肌色になっているのだが、ここだけやたら目立つようになっていて、全体のデザインとして統一感が無い印象を受けた。スカートは素敵なので、全体的にもうちょっとダークな色みで統一したほうがこの暗い幽霊に縛られて外に出たいが出られないアルヴィング夫人には似合うのではという気がした。オスヴァル役は安西慎太郎で、最初のほうは以前見た忍成修吾同様、ちょっとダウナーな感じなのだが、終盤は独特のエゴと知恵を感じさせるような演技になっていて、メリハリがあったと思う。とくにレギーネなら狂気に陥った自分を殺してくれるだろうと言う場面は良かった。セットが19世紀風なせいか、以前は気になった病気の描写に関するアナクロニズム的な印象も持たずにすっと見られた。明らかに恫喝を行っているエングストランとか、非常に現代的だがこの後は不幸まっしぐらであろうレギーネも良かった。