正攻法の楽しいプロダクション~Dステ『お気に召すまま』

 青木豪演出、Dステのオールメール『お気に召すまま』を見てきた 
 けれんや小細工はあまり使わず、要所要所で笑わせる正攻法な演出である。セットは両脇に布の小屋を建て、真ん中を小高くして奥に木などを配置するというものだ。結婚式の場面などではセットにたくさん花を飾ったり、牧場の場面では着ぐるみや風船のヒツジがあらわれたり、ビジュアルはけっこう牧歌的だ。衣装はくつろいだ感じの可愛らしいものである。台詞はあまりカットしておらず、オーソドックスな『お気に召すまま』だと思う。舞台上で生演奏が行われ(フレデリック公が出てくるところではダース・ヴェイダーのテーマ風な音楽が必ずヴァイオリンで演奏される!)、アミアンズ(鈴木壮麻)が大変上手に歌を歌う場面がいくつもあり、全体的に音楽的でロマンティックな雰囲気でまとめている。

 ロザリンドとシーリアの友情やロザリンドとオーランドの恋心といった若者同士の強い情愛を非常に強調しており、若々しい芝居になっている。前山剛久演じるロザリンドは颯爽としていて頼りになる麗人といった雰囲気なのだが、一方で西川幸人演じるシーリアはいい意味での小娘感が凄く、ロザリンドより若くておてんばな感じで作られていて、蜷川オールメールのたおやかな月川シーリアとはまた違うリアルさが非常に良かった。大人っぽく慎重なところもあるおねえさま風なロザリンドに、大胆だがたまにはロザリンドに甘えたいシーリアという対照的な性格のふたりが常に協力しあうことで、若い女性同士の強い信頼関係が浮かび上がってくるようになっている。また、柳下大演じるオーランドは非常にハンサムでさわやかな若者なのにお腹が減るとすぐ機嫌が悪くなりそうな雰囲気があり(アダムが餓死しそうだと思って公爵の食卓を襲撃する場面はいかにも食い詰めた若者らしい危機感がある)、現代的で親しみやすかったと思う。この好男子だが未熟なところもあるオーランドと、しっかり者だが純情なところもあるロザリンドが恋に落ちる様子がとても微笑ましい。

 細かいポイントとしては、ル・ボー(遠藤雄弥)がふつうのプロダクションよりけっこう良い人そうに描かれているところや、アミアンズ(鈴木壮麻)が全体の音楽的な雰囲気を創り出すのに貢献する大きな扱いになっているところが個性的で良かったと思う。アミアンズ役の鈴木壮麻は最後にハイメン役で出てきて結婚式をまとめるのだが、こういうちょっとスピリチュアルな雰囲気はDステが前にやった『十二夜』にも見受けられたので、特徴と言えるのかもしれない。加治将樹演じるジェイクイズは非常に辛辣だが面白い男で、どっちかというと『トロイラスとクレシダ』のサーサイティーズみたいな雰囲気だった。

 ツボを抑えて的確に笑わせたりほろりとさせたりする演出にロマンティックで牧歌的な雰囲気が重なり、とても楽しいプロダクションになっていると思う。はじめてシェイクスピアを見るような人にも強くおすすめできる舞台だった。