舞台的すぎて盛り上がりに欠ける〜『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』(ネタバレあり)

 マイケル・グランデージ監督、ジョン・ローガン脚本の映画『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』を見た。実話をもとにした作品である。

 1920年代末のニューヨーク、スクリブナー社の名編集者でヘミングウェイフィッツジェラルドの担当であるマックス・パーキンズ(コリン・ファース)のところに、無名の作家トムことトマス・ウルフ(ジュード・ロウ)が原稿を持ち込んでくる。新人の才能を見込んだマックスは、とにかくたくさん書くトムに小説をカットさせデビューにこぎ着ける。トムはベストセラー作家となり、批評家からも高い評価を受けるが、天才肌で奇矯な性格のトムは親友であるはずのマックスとなかなかうまくいかず、ケンカ別れした末に脳腫瘍で急死してしまう。

 全体的にグランデージとローガンがいつも舞台でやっていることを映画に持ち込んでしまった感じで、ちょっと映画としては不自然だったり、盛り上がりに欠けるところが多いかなと思った。ローガンは『ピーターとアリス』や『レッド』などで芸術史を扱ったお芝居は得意だと思うのだが、そのノリをそのまま舞台に持ってきて、グランデージが舞台のノリで演出してしまったような印象を受けた。完全につまらないというわけではないのだが、展開が飛ばし気味で説得力のないところがあり、舞台ならそれでもOKな気がするが映像にすると強引に見える。とくにトムと内縁の妻である舞台衣装デザイナー、アリーン(ニコール・キッドマン)の関係の描写に丁寧さが無く、アリーンがトムの酷さに呆れて暴れたり自殺を企てたりするわりには別れずに一緒にいたりするあたり、ちょっとなんでだかよくわからないし、パーキンズの妻ルイーズ(ローラ・リニー)がアリーンに前の夫のところに戻ってはと言うあたりも唐突だ(名前のある女性登場人物が女だけでちゃんと話すのはこの場面だけなのだが、基本的に互いの夫の話なのでベクデル・テストはパスしない)。
 一番舞台的にすぎると思ったのはマックスの帽子を使った演出である。マックスは常に帽子をかぶっていて、自宅で食事をしている時にも帽子を脱がない。ところが最後、トムから死後に手紙が届いた時だけ帽子を脱ぐ。これは舞台でやるとけっこう効いてくる演出だと思うのだが、映画でやると自宅の場面のリアリティなんかが違うので、マックスの帽子がたいへん目立ってしまって違和感がある(たぶん舞台だとリアリティラインが違うのでそこまで気にならないのではと思う)。最後にそれを脱ぐという演出が、映像だといささかわざとらしい。