南国魔女悲劇〜満天星シェイクスピアシリーズ『マクベス』

 芝居砦・満天星で満天星シェイクスピアシリーズ『マクベス』を見てきた。金守珍演出、新宿梁山泊の公演である。1時間40分くらいで終わってしまう短い『マクベス』だが、カットの仕方は一貫性があり、そんなに悪くはない。
 美術は以前に同じシリーズでやった『ハムレット』に似ているのだが、とにかくスコットランドらしい特徴を一切払拭して南国ふうにしている。着ている衣装は『ゲーム・オブ・スローンズ』のドーン人みたいだし、使っている音楽は『アランフエス協奏曲』とかジリオラ・チンクエッティの「夢見る想い」とか、スペインやイタリアの楽曲ばかりだ。全体的に地中海ふうの情熱的でどぎつい演出になっていると思う。
 視覚的にはいろいろ工夫があり、3人の魔女が色っぽく、冒頭ではクロスしたゴムに目の前で蜘蛛の巣を張るなどいろんなまじないを観客に見せたり、大きな手(まじないに使う運命の手みたいなもの)を担いで出てきたり、見映えのするところがいろいろある。マクベスが掴もうとする短剣を脇から差し出すのはこの魔女たちだし、最後は運命の糸車を持って後ろに控え、マクベスの死を見守る。
 こういう感じでいろいろ見所はある演出なのだが、台詞回しはかなり貧弱で、とくに主演の2人は長台詞を扱い切れていないと思った。マクベス夫人はちょっとわざとらしいというか、1人だけそれこそ『ゲーム・オブ・スローンズ』のドーンから出てきたみたいに温度が高くて、もうちょっと冷静な怖さが必要とされているマクベス夫人には個性があわないんじゃないかと思った。
 台詞のカットはわかりやすくていいと思ったのだが、そんなら地獄の門番は全部カットでもいいのではという気がした(一瞬だけ出てくる)。あと、私が個人的に好きなマルカム王子の童貞宣言はカットされていた。