宣伝がダサいが内容は良い〜『マイ・ベスト・フレンド』

 キャサリン・ハードウィック監督『マイ・ベスト・フレンド』を見た。

 アメリカ生まれでロンドンに越してきたジェス(ドリュー・バリモア)はミリー(トニ・コレット)と親友で、何でも一緒にやってきた。ところがミリーに乳癌が見つかり、ジェスは不妊治療の成果で妊娠。互いの人生の大事な局面で余裕がなくなった2人は仲違いしてしまうが…

 女性同士の友情を丁寧に描いた話で、ちょっと『フォーエバーフレンズ』に似ている。『トワイライト〜初恋』の監督であるキャサリン・ハードウィックは女性の心情を描くことについては折り紙付きだし、女性同士の会話なども自然でツボをおさえている(ベクデル・テストはもちろんパスする)。自由奔放で活動的なミリーがだんだん病気で弱っていくまでの変化を繊細に表現したトニ・コレットと、もう少し常識人で心が優しいジェスを演じたドリュー・バリモアは対照的だが、息の合った演技を見せている。こういうワイルドで新しいもの好きな女性と、けっこう性格が違う自然派でおっとりした女性がなぜか意気投合しているみたいなのはわりと現実でもよく見かけるし、住んでいる家とか身のまわりの小物なんかも2人の趣味の違いなんかをよく表していて芸が細かい。またミリーのやたらゴージャスな母、ミランダを70過ぎとは思えない活力のジャクリーン・ビセットが演じていてさすがの貫禄である。とくにミランダがミリーの髪の毛をこっそりとっておいたりするあたりの細かい演出と演技が良かった。女性の友情ものというとやたら乳癌や死が出てくるのはちょっとどうかと思うし、基本的にミドルクラスの女性2人でけっこう良い生活をしているのでそのあたりもちょっと陳腐に見えるというのはあるが(ジェスはミリーよりだいぶ貧しくて夫が出稼ぎに行っているが)、それでもよくできた映画だと思う。

 全体的にロンドンの西や北の地域でロケをしており、これが生活感を出すのに貢献している。ジェスはバターシー発電所近くのハウスボートに住んでおり、登場人物はリトル・ヴェニスで食事をする。ミリーが通っている病院はユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの癌センターだ。一方、途中で2人がお気に入りの『嵐が丘』のロケ地を求めてヨークシャのハワースまで行くところがあり、ここでは生活感皆無の荒野の風景がうまく使われている。このヒースの荒れ地で2人はケンカしてしまい、住み慣れたロンドンに戻ってから仲直りするのだが、まああんなこの世ならぬ荒涼とした風景のところでは人間関係もうまくいかなくなるだろう…となんとなく納得してしまう一方、ケンカの場面で地元の農家の人とかヒツジとかがのんきな感じで映っているあたりがなんとなくおかしく、人間の営みなんて本人たちは真剣でも実はくだらなかったりするんだよなぁ…と思ってしまった。2人のケンカのネタは冷静に考えるとけっこうくだらないことだったりするので、風景をうまく使ってそのことを表現していると思う。
 
 と、いうわけで、けっこうオススメの映画なのだが、問題は日本の宣伝がダサいことである。英語タイトルはMiss You Already(もう会いたくなっちゃってるよ)で、これは途中、酔っ払ったミリーがジェスと別れる時に言う台詞と、ミリーの死の後のジェスの心情にひっかけたもので、さっきまで会っていたとしても、大切な人がいなくなるとすぐ寂しくなってしまうということを気の利いた言い方で表現していると思うのだが、『マイ・ベスト・フレンド』というどっかで聞いたようなありふれた日本語タイトルになってしまった。平原綾香の日本語版主題歌もいらないし、予告編がやたら『セックス・アンド・ザ・シティ』によりかかってるのも疑問だ。ひょっとして「#女性映画が日本に来るとこうなる」案件だろうか。