死ぬ死なないはワタシが決める〜『92歳のパリジェンヌ』(ネタバレあり)

 パスカル・プザドゥー監督『92歳のパリジェンヌ』を見た。

 なんかふんわりした日本語タイトルがついているが、全然そういう感じの映画ではない。あまりパリとかは関係ないし、尊厳死を扱った映画で、後味が悪いわけではないのだがけっこう深刻なところもある作品である。

 ヒロインのマドレーヌ(マルト・ヴィラロンガ)は元助産師で92歳。めちゃくちゃワイルドな女性で若い頃から草の根フェミニズム活動やアフリカ諸国の支援活動などをやっており、恋愛のほうも夫がいるのに不倫していたり、まあほんとうに自分を曲げない頑固なフランス女性である。そんな一度決めたらてこでも動かないマドレーヌが誕生日の席で家族を前に「二ヶ月後に死ぬ」と宣言する。マドレーヌは生殖医療などにもかかわっていていまだに助産院廃止反対とかをしているので、まさに「死ぬ死なないはワタシが決める」ある。

 基本的にはこの宣言に困り果てた家族たちの様子を描くものである。中心になるのはマドレーヌと娘のディアーヌ(サンドリーヌ・ボネール)の関係で、ディアーヌは面食らうがだんだんマドレーヌの心境を理解するようになる(この母娘の会話や、マドレーヌのお手伝いヴィクトリアとの会話も多いので、ベクデル・テストはもちろんパスする)。おばあちゃん子であるマックス(グレゴアール・モンタナ)はガールフレンドとオーストラリアでサーフィン店を開くつもりで、渡航後におばあちゃんが死んでしまうと死に目に会えないと言ってゴネまくる(この祖母と孫は頑固なところがちょっと似ている)。息子のピエール(アントワーヌ・デュレリ)もやはり頑固者で、さらにマドレーヌのワイルドすぎる暮らしぶりに反感があったこともあり、尊厳死を選ぼうとするマドレーヌに最後まで会いたがらない。

 マドレーヌがディアーヌと初恋の人に会いに行ったりするあたりはコミカルなのだが、老いてだんだん一人で暮らしていけなくなるマドレーヌの描写とか、最後まで家族が完全に和解できない様子なんかはかなりシビアである。人に面倒を見てもらうことを極端に嫌うマドレーヌの考えはちょっとひっかかるところもある一方、やはり昔はできたことがどんどんできなくなっていくのがつらいという老いの悲しみもひしひしと理解できるよう描写されているので、マドレーヌの選択が正しいのかそうでないのかについては非常に考えさせられてしまう。全体的には明るいところと悲しいところのバランスがとれた作品だった。