よくできた芝居だが、私向きの紅茶ではなかった〜ブラナー・シアター・ライブ『エンターテイナー』

 ブラナー・シアター・ライブで『エンターテイナー』を見てきた。ジョン・オズボーンが50年代末にローレンス・オリヴィエを主演に迎えて作った芝居で、一度映画化されているのだが未見である。

 かつては華やかな娯楽の代表だったはずのミュージックホールが廃れていく時代を背景に、一流とはいえない中年の芸人、アーチ−の一家を軸に人生の哀歓を描いた作品である。ロブ・アシュフォードが演出でケネス・ブラナーがアーチ−役をつとめ、『ダウントン・アビー』のデイジー役だったソフィー・マックシェラがアーチ−の娘であるジーンを演じている。

 ごくふつうの家族の居間とアーチ−が出演している劇場が切れ目無く入れ替わるセットなどは面白いし、役者の演技も申し分ない。ひとつの家族の中にすら存在する微妙な階級やジェンダー差に起因する問題を浮かび上がらせる台本もいいと思うし、たいへんよくできた上演だった…のだが、なんかイマイチ面白いと思えなかった。とりあえずいつもトラブってる「怒れる中年男」であるアーチ−にばかり焦点があたっているところにあまり面白みを感じることができない。この戯曲にはアーチ−を相対化するジーンなどの存在もあるのだが、アーチ−の妻フィービーの描き方なんかはちょっとミソジニーを感じるところもあった。『怒りをこめて振り返れ』とかも面白いと思ったことが無いので、どうも私はジョン・オズボーンの怒れる男性主人公を中心にした戯曲が好きでは無いらしい。こういう台本が好きだという人の考えはよくわかるし、上演じたいのクオリティは高いとも思うのだが、どうも私向きの紅茶じゃなかった。