バジーレのおとぎ話の映画化〜『五日物語—3つの王国と3人の女—』

 マッテオ・ガローネ監督『五日物語—3つの王国と3人の女—』を見た。

 17世紀ナポリの作家、ジャンバティスタ・バジーレによる民話集『ペンタメローネ』に収録されているおとぎ話を脚色して映画化したものである。この民話集はヨーロッパに広く分布しているおとぎ話の古い形を伝えており、翻訳も出ている。

 古い形を伝えているだけあって残虐だったり荒っぽかったりする話も多いのだが、この映画化もエロティシズムと残虐性をたっぷり盛り込んでいる。基本的には「魔法の牝鹿」「ノミ」「生皮をはがれた老婆」三つの話を並行して語っており、最後に全部がからむようになっている。だいぶ変更してあるところもあり、また各挿話のつなげ方はちょっと強引な気もするのだが、全体としては美しいヴィジュアルでお話も飽きさせない展開になっている。

 一番よくできているのはノミの話だと思う。高台の王国をおさめているダメな父王(トビー・ジョーンズ)と、残酷な目にあって最後は女王として自立するヴァイオレット(ベベ・ケイヴ)のキャラがよくできているし、期待を裏切りつつこれでもかこれでもかとハラハラさせておいて最後はヴァイオレットの活躍でしめる話の展開もうまい。一方で「魔法の牝鹿」(となっているが映画は鹿の話ではない)がベースの話はサルマ・ハエック演じる王妃の母親の業の物語になっており、演技は良いがちょっとミソジニーのきらいもある。「生皮をはがれた老婆」の話が一番ヴィジュアルが残虐で、さらにいかにもおとぎ話という感じで理由もなく人が変身したりする不条理で強引な展開になっており、女たちがたいへんな苦労を強いられるのにヴァンさん・カッセル演じる色ボケの王様は結局罰を受けずにのうのうとしているあたりがちょっと腑に落ちないところもある。

 なお、この映画はベクデル・テストはパスする。どの話も主要人物は女性で、とくに「生皮をはがれた老婆」の挿話なんかは姉妹同士の会話がたくさんある。
 

ペンタメローネ (上) 五日物語 (ちくま文庫)
ジャンバティスタ・バジーレ 三宅 忠明
筑摩書房
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