市民ジンと姫チアルート〜『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(ネタバレ多数)

 ギャレス・エドワーズ監督『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を見てきた。言わずと知れた『スター・ウォーズ』のスピンオフで、エピソード4の直前を描くものである。

 ヒロインのジン(フェリシティ・ジョーンズ)は幼い時に帝国によって才能ある技術者であった父ゲイレン(マッツ・ミケルセン)から引き離され、反乱軍の戦士ソウ・ゲレラ(フォレスト・ウィテカー)の娘分として育てられたが、さらにソウにも置き去りにされた。偽名を使っていろいろな犯罪にも手を染めつつ生きていたが、帝国につかまってしまう。ところがゲイレンの娘でソウの養女という立場ゆえに反乱軍がジンに目をつけ、帝国の手から救出されたジンは反乱軍に協力することなる。

 正直、前半部分はかなりもたついているわりに説明不足と思えるところがあり、どうなることかと思ったが、フォースに仕える僧侶で盲目の戦士であるチアルート(ドニー・イェン)とそれを守る兵士で用心棒のベイズ(チアン・ウェン)が登場し、さらにソウとジンが再会するあたりからどんどん面白くなった。最後は怒濤の息もつかせぬ展開になるので、なんで最初からこの調子で飛ばしてくれなかったんだろうと思ってしまった。

 『スター・ウォーズ』シリーズは全体的に「父親がトラブルを起こして子どもがえらいことになる」という展開が多いと思うのだが、この作品におけるヒロインのジンは『スター・ウォーズ』の登場人物としてはジェダイでもないし有名な札付きの犯罪者でもないし王家の出身者でもないしけっこう「ふつう」の人なのだが、この親父トラブルに関してはトップレベルで、実父のゲイレンと養父ソウ両方のせいで迷惑を被り、最終的には命の危険にさらされるというたいへん気の毒な運命を背負った女性である。まずは養父、次は実父を回復しようとしたのに、どちらも次々に帝国のテロのせいで失ってしまい、最後は実父ゲイレンから託されたメッセージを実現するため帝国と対決するということで、これはヒロインのジンが象徴的な意味での父との絆を回復するための物語と言ってもいいだろうと思う。ゲイレンとの絆を示す「スターダスト」という言葉が最後に出てきて回収されるところはちょっと『市民ケーン』を思い出した。

 ジンが父を失った遍歴の英雄というポジションにいる一方、この作品における「姫」ポジションはチアルートである。チアルートはフォースで強化された座頭市みたいな感じで武術の点では最強レベルに強いのだが(この人はジェダイじゃないらしいのだが、一体帝国につぶされる前に所属してた宗教団体ではどんな修行をしていたのか、興味をそそられまくった)、物静かで品があり、一方で無鉄砲なところもある人物でしょっちゅう危険にさらされている。無骨な兵士ベイズは、この危険なところに平気で飛び込んでいってしまう麗しのチアルートにベタぼれになっていて、身を挺して守ろうとする。ベイズは実際的な男でフォースのことは眉唾だと思っているらしいのだが、チアルートのことは強く信じ、愛しているらしい。チアルートとベイズの会話がまるで長年連れ添ったカップルみたいなので、英語圏では「この2人はスター・ウォーズシリーズ史上初のオープンな同性カップルなのか」という議論が熱いそうだ。この2人がどういう関係なのかはあまり明示的に書かれておらず、製作陣はこの点曖昧で、クレニック役のベン・メンデルゾーンは「まあ、お客さんにまかせます」的なことを言っていたりもするのだが、たしかに貴婦人とそれを守る騎士みたいに見えるのは間違い無い。よく考えると『スター・ウォーズ』シリーズにはあまり長期にわたって良好な関係を築いているカップルが登場していないので、異性カップルがことごとく失敗しまくっている中、珍しく出てきたうまくいっているカップルが同性…であれば非常に面白いとは思う。まあそういうことを考えなくてもチアルートとベイズは超カッコいい。

 『ローグ・ワン』は、まあお姫様キャラや親父トラブルなどは出てくるものの、圧倒的にそこらの市民の映画である。ジェダイも出てこないし、主要なキャラクターは特別な人というよりは家庭のしがらみで戦闘に巻き込まれたり、ド田舎でひどいめにあったりした一般人で、そうした人たちが耐えられなくなって立ち上がり、ひょんなことからネットワークを作って帝国に対抗する物語である。今まで汚いことや悪いこともずいぶんしてきたし、反帝国主義闘争のやり方もゲリラ的だ。『スター・ウォーズ』本編が『風と共に去りぬ』(南北戦争叙事詩)だとしたら、『ローグ・ワン』は『シビル・ガン 楽園をください』みたいな、主戦場から離れたところで血で血を洗う戦いをしていた人たちに関する映画である。しかしながら、どんな汚い戦い方をしていても譲れない一線がある。途中でソウが「帝国の旗があがるのを見て我慢できるもんか」というようなことを言うが、この心意気は今の社会状況を考えても一番必要とされている心意気だと思う。

 全体的には面白くていい映画だったが、ちょっと文句をつけたいところもいくつかある。前半のもたつきはもちろん、女性キャラがジンとモスマ議員くらいしか出てこないところは物足りない。一応この2人の会話でどうにかベクデル・テストはパスするのではと思うのだが、もっと女性(とくに非白人女性)を出してもらいたかった。あと、出来の良さとは別のところですごく気になったのは帝国の土地利用のしかたがおかしいということである。最後はスカリフにあるデータセンターみたいなところが主戦場になるのだが、南国のリゾートビーチみたいなところにデータセンターって、おかしいだろ…湿気や熱気の対策はどうしてるんだろうとたいへん疑問に思った。「機密性を理由にあのへんの土地を全部買収し、実は幹部のリゾートホテルもあのあたりにある」とか、「昔はあそこにシリコンバレーみたいなところがあったが、帝国が無理矢理買収してもといた技術者を働かせてる」とか、いろいろ変な想像をしてしまった。