ジャズ映画二編、同じような展開なのに全く違う味わい~『ブルーに生まれついて』&『Miles Ahead / マイルス・デイヴィス 空白の5年間』(ネタバレあり)

 チェット・ベイカーの伝記映画『ブルーに生まれついて』とマイルス・デイヴィスの伝記映画『Miles Ahead / マイルス・デイヴィス 空白の5年間』を見てきた。


 同時代に活躍したジャズトランペッターの伝記ものだがけっこう話は作ってある。しかも双方、ドラッグ中毒で女性ともモメており、スランプ状態だったが復活をとげる…という展開をちょっと時系列をいじりながら描くというもので、そういう点では実にそっくりな映画なのだが、見た後の味わいは全然違う。むしろここまで共通点がたくさんあるのに全く違うものに見えるのが面白い。是非2本あわせて見るのをおすすめする。

 『ブル−に生まれついて』は全編、抑えた撮り方のクールな映画である。チェット・ベイカーはミュージシャンとして才能があったばかりではなく物凄い美男子だったのだが、イーサン・ホークがいかにも崩れたイケメンという雰囲気を醸し出していてとてもぴったりハマっている。最後は結局、チェットが愛と健康よりも音楽を選んでドラッグをやめられない…という落とし方になるのだが、ここの描き方もあまり直接的に見せずにチェットの汚れた決意と恋人ジェーン(カルメン・イジョゴ)の落胆をうまく表現していて、全体的に雰囲気とか細かい演出で見せる作品だ。画面の雰囲気も回想シークエンスはモノクロにしたり、オシャレで落ち着いた感じなのだが、ただカラーのところではジャジーな雰囲気を出すためやたら光と影のコントラストを強調しており、ここがちょっとやりすぎでくどいように思った。けっこうしつこく暗い場面は徹底的に暗く、光が入る場面は光をやたら強調して撮るので、役者の表情が見えづらくなったり、見た目の落ち着いた美しさがかえって殺がれていたりするところもある気がする。

 『Miles Ahead / マイルス・デイヴィス 空白の5年間』は対照的にホットな映画である。ドン・チードルが監督・主演を兼ねているのだが、とにかくチードル演じるマイルスがよくしゃべり、よく動き、それにローリング・ストーン誌の記者デイヴ(ユアン・マクレガー)が振り回される。物理的に場所を移動する展開が多く、さらに過去と現在をなめらかに行き来する編集で、マイルスが幸せだった若い時代と、ヤク中でボロボロの現在をうまく対比させている。こちらもチードルが破天荒で行動的なマイルスを熱演しており、相棒をつとめるユアン・マクレガーも悪く無い。ただ、話の展開についてはちょっと強引なところがあり、丁寧な演出でチェットのミュージシャンとしての業を見せた『ブルーに生まれついて』に比べるとストーリーを盛りすぎな感がある。最後にはマイルスのカムバックバンドとしてジャズ界の超大物やスターが実際にゲストとして出演し、サウンドにピッタリのサイケデリックな映像をバックに演奏してくれるという凄いオチがある。

 チェットもマイルスもかなり人格に問題があり、とくに女性との関係について問題をかかえている人として描かれている(なおベクデル・テストはどちらもパスしない)。どちらも素晴らしい女性と付き合っているのだが、チェットはドラッグ、マイルスは高圧的で暴力的な態度のせいで恋人を失ってしまう。このあたりは全く美化されておらず、どちらの作品も厳しい目を向けていると思った。とくにマイルスはすごい才能とカリスマがあるとともに、人格にめっちゃ問題がある人に見えた。