面白いが、チザムの描写に力が偏りすぎか〜『マグニフィセント・セブン』

 アントワーン・フークア監督『マグニフィセント・セブン』を見てきた。『七人の侍』は見たことあるが、直接の原作である『荒野の七人』は未見である。

 
 全体として、最後まで飽きさせないアクション映画で面白い。お話は悪徳企業家ボーグ(ピーター・サースガード)が西部の小さな町、ローズクリークを金鉱採掘のためにつぶそうとし、脅しとして町の男たちを数人殺害したところから始まる。夫を殺され、復讐を誓った寡婦エマ(ヘイリー・ベネット)とテディQ(ルーク・グライムス)は腕に覚えのある者を雇おうと旅に出るが、その先でかつては南北戦争北軍の軍人で今は委任執行官であるサム・チザム(デンゼル・ワシントン)と出会う。チザムはお調子者の賭博師ファラデー(クリス・プラット)、フランス系カナダ人で南軍の名狙撃手でやたらシェイクスピアとかを引用したがるグッドナイト・ロビショー(イーサン・ホーク)、その相棒でナイフ投げの達人である東アジア系のビリー(イ・ビョンホン)、メキシコ人のお尋ね者バスケス(マヌエル・ガルシア=ルルフォ)、ネイティヴアメリカンを300人殺したという伝説を持っている猟師ジャック・ホーン(ヴィンセント・ドノフリオ)、コマンチ族出身の一匹狼の狩人レッド・ハーヴェスト(マーティン・センズメアー)を集め、町の住人には射撃の訓練をして市街戦の準備をする。チザムに部下を殺されたボーグは怒って多数の軍勢を集め、ロースクリークを襲撃しようとする。多勢に無勢の絶望的な状況の中、ローズクリークを守ることはできるのか…

 人種的にバラエティのあるキャストが特徴なのだが、監督のアントワーン・フークアによると19世紀の西部は通常思われているよりもけっこういろんな民族の人間が混在していたらしい。また、この話が来た時にフークアがまず思いついたキャストが、馬に乗った超カッコいいカウボーイのデンゼル・ワシントンというキャラだったらしい(既に一緒に仕事をしている大スターだし、フークアもアフリカ系だし、まあ当たり前といえば当たり前のチョイスだ)。そういうこともあり、とにかくチザムはカリスマ的でかつ人間的な魅力のあるキャラクターに描かれている…のだが、そのカリスマのせいもあって、チザムがローズ・クリークに入ってきた時にすんなり町の人々がチザムを受け入れてしまうところはちょっとやりすぎなのではという気もした。この時代の西部の町に人種差別が無いわけはないので、いくらもの凄いカリスマを持ってボーグの部下を追い払ったからと言ってひとりくらいは人種差別発言をしてチザムの能力を疑うような町民がいたほうが描き方がリアルになると思うのだが…

 また、役者のキャラがみんな立っているせいで見ている時はあんまり気にならないのだが(一言で言うと全員、若造からおっさんまでむちゃくちゃセクシーである)、よく考えるとちょっと描き方が薄いのではと思えるところもけっこうある。「謎の東洋人」ビリーとグッドナイトはどうもゲイカップルみたいなのだが、そのあたりの描き方はかなり曖昧にしてあってしっくりこない。また、チザムの描き方がわりとしっかりしているのに比べて東アジア人のビリーやネイティヴアメリカンのレッド・ハーヴェストは「寡黙で神秘的な戦士」みたいなキャラになっており、ステレオタイプの域を出ていないように思う(2人とも凄いいい男でカリスマがあるから見てる時は騙されちゃうが、よく考えるとあんまり丁寧に描かれたキャラではない)。バスケスもやや影が薄いところがある。寡婦のエマは悪くないキャラクターだと思うが、女性キャラでちゃんとした台詞があるのはエマひとりでベクデル・テストはパスせず、もうちょっと女性同士の協力などが描かれてもいいのではという気がした。

 ちなみに、冒頭で売春宿のおやじさんが「ボーグはビジネスマンなんだから金と交渉で解決できるんじゃないか」と希望的観測をしていたところ、ボーグがやってきて殺戮をはじめるという展開がマジで今のアメリカみたいであった。こういう横暴と戦う者がマグニフィセントなのだ。今この時代であれば誰でもマグニフィセントになれる。